誰しも人は仕事を続ける中で「昨日より今日、今日より明日、去年より今年は成長していたい」と考えると思います。デザイナー・アートディレクターであれば「もっと魅力的なデザインを作りたい」「プレゼンが上手になりたい」「後輩に効率的に自分の持つ力を伝えたい」といった願望を持つと思います。しかし、そういった将来必要になるスキルを身につけるための活動は、いかんせん目の前の忙しさにかまけてないがしろになりがちです。どうしても今、目の前の仕事をこなすことで精一杯になり、その先につながる活動を続けるまでのバイタリティが保てない…と感じる人は多いのではないでしょうか。
そんな中、昨年末に「自助論」という本に出会いました。この本は1858年にイギリスで出版されたもので、現在書店に数多く並ぶ自己啓発本の草分け的な存在と呼ばれています。日本では明治時代に出版され、当時福沢諭吉の「学問のすすめ」とともに大ベストセラーとなっており、今現在でもAmazon.co.jpのレビューで100件以上のレビューがありながらも評価の平均は4.4という高評価を得ている本です。
本書には、忙しいことや時間が無いことを言い訳にせず、どうやって自分が決めた活動を継続するのか?という問題に対してのヒントが沢山詰まっています。このエントリーでは、私自身の成長を見据える上でとても参考になった考え方、心に響いた考え方を5つ、実際の文章を抜粋してご紹介したいと思います。
(1)自助の精神を持て
どんなに立派で賢い人間でも、確かに他人から大きな恩恵を受けている。だが、本来の姿から言えば、我々は自らが自らに対して最良の援助者にならなければいけないのである。
「自らの最良の援助者」という言葉は少々回りくどい言葉ですが、言い換えれば「自分自身に投資し、自らを磨く」という意味です。上司や世間からの応援・評価を活動エネルギーの源に据えると、そういった第三者の一挙手一投足によって自分の意思が影響されがちですが、自らで自分自身に投資を続けることを活動の根源に据えると、他人からの影響は受けません。目標を達成するためには、他者を起点に置かずに自分自身にベクトルを置くべきだ、という考え方です。
もちろん「上司に認められたい」「アイツにだけは負けたく無い」といった活動エネルギーがプラスに働くこともあると思います。しかし、途切れることのない自分自身への投資こそが、自分自身への最大の応援になるという考え方は、自分が掲げる目標に向かう上で非常に理にかなった考え方だと感じます。
(2)結果は必ず努力の上に成り立つもの
人間の優劣は、その人がどれだけ精一杯努力してきたかで決まる。怠け者はどんな分野にしろ、すぐれた業績を上げることなど到底できない。骨身を惜しまず学び働く以外に、自分をみがき、知性を向上させ、ビジネスに成功する道はない。
当たり前な話で、言葉にすると「ただの正論」と思う方もおられると思いますが、やはり生きることの基本として「努力」は非常に大きな力がある、という話が強く語られています。
書籍全般を通じて様々な偉人の実例が語られているのですが、誰一人として楽をして結果を出した人は登場しません。血の滲む努力と多くの時間を費やすることを覚悟し(もしくは自然とそのように行動し)、自分の生き方に真っ向から向き合ってこそ、人間の優劣は決まるものだと説いています。努力することもなく結果を求めるような都合の良い考え方は通用しない、と言い換えることもできます。
(3)勤勉の習慣を身につけよ
最大限の努力を払ってでも勤勉の習慣を身につけなければならない。それさえできれば、何ごとにおいても進歩や上達は目に見えて早くなるだろう。
人は学び続けることで人格が磨かれるという話です。30歳を超えてある程度キャリアを重ねてきた人であれば、自分自身のそれまでの経験を活かしてそれなりの活動を続けることはできると思います。しかし、今以上に活動の幅を広げたり、新しい目標を達成したいと考えるのであれば、やはり基本に立ち戻って新たな物事を学ぶ姿勢を持たなければ、前に進むことはできません。
またその勤勉自体の重要性と合わせて「学び方」についても参考になる節が幾つかあります。
単なる知識の所有は、知恵や理解力の体得とは全くの別物だ。知恵や理解力は読書よりもはるかに高度な訓練を通じてのみ得られる。一方、読書から知識を吸収するのは、他人の思考をうのみにするようなもので、自分の考えを積極的に発展させようとする姿勢とは大違いだ。
読書を自己啓発の手段と思い込んでいる人は多い。だが実際には、本を読んで時間をつぶしているだけの話だ。
自分自身が勉強すれば、その内容についての印象はいつまでも鮮明に残る。人から与えられた不十分な情報とは違って脳裏にはっきりと刻み込まれる。
ネット上でバズっている記事や専門書籍を読んだりすること、セミナーなどで著名人の話を聞きに行ってみたりすることは、さも自分が勉強しているような気分になりがちなのですが、実のところ、それ自体には本来意味が無いことを語っていると思います。重要なのは、それらをヒントに自分自身の環境に置き換えて考えてみたり、調べてみたり、実行してみたりといったアクションにまで結びつけることが、真に有益な学びである、という話だと感じました。
(4)克己心(こっきしん)を養え
自分の悪習をわずかでも改めるより、国家や教会を改めるほうが簡単だと思い込みがちだ。一般的にいって、人は自らの非を直すより隣人の非をあげつらうほうが、よほど好みにあっているようである。
克己心(こっきしん)とは、自分の欲望を抑える心です。人は往々にして、自分自身の行動を改めずに環境のせいにしたり、自分自身で決めたことをなにがしの理由をつけてやらなくなったりします。しかし自助論では、自分の将来の利益のために現在の満足を犠牲にする、という克己の精神が大切であることが語られています。また大切であることを語る反面、その克己の精神を身につけることは非常に難しいとも説いています。栄光や成功は、弱い自分の心に打ち勝ち続けてこそ得られるものであるということが分かります。
(5)修練無くして結果なし
ある時、ベネチアの貴族がミケランジェロに自分の胸像作成を依頼したところ、ミケランジェロはそれを10日で仕上げ、代金として金貨50枚を請求した。貴族は「たかが10日で仕上げた作品にしては法外な代金だ」と抗議したが、ミケランジェロはそれに対し「あなたはお忘れです、胸像を10日で作れるようになるまでに、私が30年間修行を積んできたということを」と答えた。
イタリアの彫刻家、ミケランジェロの非常にキャッチーなこのエピソードは、ネット上で見かけた方も多いのではないでしょうか。圧倒的な成果を残す人は必ずどこかでその成果にたどり着くための努力をしているものだ、という話がこの他にもいくつも紹介されています。先ほどの克己心とも重なる部分ですが、大きな成果を残す人は自らの弱い意思を制御し、コツコツとした努力を続けた事実が必ずあります。前回の記事で、上手なプレゼンテーションを行う際にも地道な練習が必要という話を挙げましたが、まさにこの話に通ずる部分があると感じました。
当たり前のことを当たり前にやる大切さ
書かれている内容は、斜めから読めば「正論」「きれいごと」「当たり前」と捉える人もいるでしょう。事実として中で紹介される実例は、2016年を生きる私たちの社会の環境にそのまま置き換えてみると、うまく当てはまらないものも多少はあります。加えて昨今の自己啓発本にあるような、具体的な行動パターンの変化を促すような実例もありません。しかし上記で紹介した考え方は、明日から使えるTIPSのような話があふれる現在、そういった上辺のテクニックに流されずに改めて大切にすべきこと、生きることの基本として心得る話だと私は感じました。
自助論は、当たり前のことを当たり前にやることが大切ということを、淡々と語りかけてくる本です。この本が出版されたのが今から150年以上も前の話。その当時から今に至るまで、世界中で永く読み継がれてきたと考えると、人の生き方とは?活動する意味とは?という大きなテーマに対して、普遍的で時代に流されない、数々のヒントやエッセンスが詰まっているのではないかと思います。
自分の成長に壁を感じる人にとっては、非常に得るものが多い書籍なのではないかと思います。私自身はこの自助論の内容を、改めて自分自身の活動の中での基本として据えておきたいと感じました。