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パワポ資料で「つい、やってしまう失敗」から学ぶ!ガチ改善テクニック14選

社会人として数年間働いている方でも「分かりやすい資料作りには自信がない」と言う方は多くおられます。体系的に資料の作り方を学ぶ機会が少ない上、資料を使った提案力は何年もかけて少しずつ磨かれるため、実は自信が持てなくて当たり前なのです。

私も働き始めの頃、先輩が分かりやすく美しい資料を作り、お客さまの心を動かしてコンペに勝ったり、お客さまから大きな信頼・共感を得たりする姿を見て、とても羨ましく思った記憶があります。

そんな20年以上前の自分を思い起こすと、経験が少ないがゆえに、資料作りで「つい、やってしまう表現」が沢山あったと感じます。この無意識のうちに「つい、やってしまう表現」は、資料の分かりやすさや見た目の美しさを阻害します。

この記事ではまず、なぜ人は資料を分かりにくくする手法を「つい、やってしまう」のか?という理由を探ります。その上で、ありがちな「つい」の事例と共に、ビフォー・アフターを交えた具体的な対処方法をご紹介していきます。

本来、資料を作って提案し、相手の信頼や納得を得ることは、楽しく嬉しいことです。この記事を読むことで、今まさに手元で作成している資料を改善するためのヒントを見つけだし、資料作成への苦手意識を減らしてもらえればと思います。

※ ご紹介するノウハウは、プレゼン資料、営業資料、決定事項を社内で共有する閲覧資料などを含む資料全般に活かせますが、特に相手の意思決定を促すプレゼン資料に有効なTIPSが多く含まれます。

※ この記事はアドビ社が提供する「Adobe Acrobat オンラインツール」のPR企画「みんなの資料作成」に参加して執筆しました。日頃から活用するAdobe AcorbatやPDFに感謝の気持ちを込めて、Acrobat オンラインツールの便利な使い方を併せてご紹介します。

資料を分かりにくくする「つい、やってしまう」こととは

例えば、資料作りで「つい、やってしまう」ことにはこんな内容があります。ひとつひとつはとても小さなことですが、積み重なることで情報は次第に伝わりにくく、読み解きづらいものになってしまいます。

  • つい、文字量が増えてしまう
  • つい、1ページに情報を盛りすぎてしまう
  • つい、専門用語・略語・カタカナ語で「説明した風」にしてしまう
  • つい、曖昧な言葉で説明してしまう
  • つい、インデントだらけになってしまう
  • つい、空いたスペースを埋めてしまう
  • つい、要素をずれたまま配置してしまう
  • つい、線や枠で情報を区切ってしまう
  • つい、強調する箇所を増やしてしまう
  • つい、装飾やレイアウトといった絵作りに時間をかけてしまう

なぜ「つい、やってしまう」のか

なぜ私たちはこうした分かりにくくする対処を「つい、やってしまう」のでしょうか。それは、人は他人よりも「自分の都合」を優先するように思考が働くからです。例えば、先ほど紹介した「つい、やってしまう」事例の頭に「自分の都合」を加えると、以下のようになります。

  • あれもこれも伝えておきたいからつい、文字量が増えてしまう
  • 分かりやすく要約するのが面倒だからつい、1ページに情報を盛りすぎてしまう
  • 他の人も当たり前に使っているからつい、専門用語・略語・カタカナ語で「説明した風」にしてしまう
  • 的確な言葉で説明できないからつい、曖昧な言葉で説明してしまう
  • 自分が構造を理解しやすいからつい、インデントだらけになってしまう
  • 手抜きと思われそうで不安だからつい、空いたスペースを埋めてしまう
  • 早く終わらせたいからつい、要素をずれたまま配置してしまう
  • 情報をしっかりと区別しておきたいからつい、線や枠で情報を区切ってしまう
  • あれもこれも伝えておきたいからつい、強調する箇所を増やしてしまう
  • どうすれば良い印象になるか分からないからつい、装飾やレイアウトといった絵作りに時間をかけてしまう

誰しもが「分かりやすく伝えたい」という気持ちはあるのです。ただ人は「忙しいし…」「面倒だし…」「難しいし…」という自分の都合を無意識に優先するため、そんなつもりはなくても知らず知らずのうちに資料を分かりにくくしてしまうのです。

心理学・行動経済学の分野で語られる「2つの思考モード」の話はご存じでしょうか。ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者、ダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』(2011年)をきっかけに世に広がった、脳の特性の話です。

簡単に言えば、2つの思考モードのうちのひとつは「システム1(直観的思考)」と呼ばれ、直観的で速い思考モードのことです。もうひとつは「システム2(分析的思考)」と呼ばれ、順序立てて論理的に物事を考える遅い思考モードのことです。

分かりやすさや伝わりやすさを突き詰めるには、資料の作り手側が「忙しい、面倒、難しい」といった理由で自分の脳内のシステム1が動き出すのを止め、意識的にシステム2を働かせ、伝わりやすくなる工夫を施す必要があります。

言語・文章編【1】つい、文字量が増えてしまう

理由・心理)人は文字量を増やすことで安心感を得ようとする

意味を正確に伝えるために文字量が増えてしまうのは自然なことです。しかし、読み手の立場に立つと、文字量が多いと直感的に「分かりにくそう…」「読むのがめんどくさい…」という気持ちになるのは、誰でも想像がつくはずです。それでもつい文字量を増やしてしまうのには、こんな心理があります。

  • 短い文章では相手に納得してもらえないのでは?という不安があるから
  • (分かりやすく要約するのが面倒だから)つい、1ページに情報を盛りすぎてしまう可能な限り情報を提供し、抜け漏れなく細部まで詳しく説明したいから
  • 自分の意見や主張を裏付けるために多くの情報を提示したいから
  • 人に言葉で説明する時にも読み上げることができて楽だから

また、自分の思考がまだ整理できていない時にも文章は長くなりがちです。端的に言いたいことがまとまらないため、できるだけ多くの情報を盛り込んで相手に理解してもらおうとするほど、文章は長くなります。

改善テクニック(1)1スライド105文字、1文40~60文字、タイトル(見出し)13文字

文字量を増やさないためには、人が理解しやすい文字量を知る必要があります。上記は、スライドの配色やレイアウトはそのままに、文字数を125文字まで減らしたものです。元のスライドと比較した時の理解しやすさは一目瞭然です。

実は1枚のスライドの適切な文字量は「105文字以内が望ましい」という調査結果があります。この結果は、元MicrosoftのPowerPoint事業責任者による調査によるもので、AIによる51,544枚の資料分析と、資料を読んでサービスを導入するかの決裁を下す意思決定権者への700時間に及ぶヒアリングから導き出されています。

また、1文は40~60文字程度が望ましいと言われています。上記で示す通り、実際に多くのツールやアプリ、Webメディアは、PCでの1行あたりの文字数を40文字前後(スマホは20文字前後)に設定しています。

最後にタイトル(見出し)の文字数。人が一度に知覚できる文字数は9~13文字と言われます。素早く正確な情報伝達が求められる「Yahoo! ニュース」のトピックスタイトルが、様々なデータ・テストを経て13~15.5文字で構成されているのも、理解しやすいタイトルを考えるヒントと言えます。

※調査結果は参考文献『科学的に正しいずるい資料作成術』からの引用。 参考文献)『科学的に正しいずるい資料作成術』(著:越川慎司)

言語・文章編【2】つい、1ページに情報を盛りすぎてしまう

理由・心理)プレゼン資料と配布資料の特長や違いを知らない

情報が多い資料の例として、「行政の資料」が挙げられます。資料3~4枚分の情報を1枚に凝縮したようなスライドに対して「見づらい」「分かりにくい」と、定期的にネットで話題になっているのを見かけます。

この話題には「プレゼン資料と配布資料の違い」についての議論が含まれないため、様々な立場の様々な意見が交錯します。建設的に議論するためには、両者の特長を整理しておく必要があります。

例えば、大きな組織には「役員会議」や「幹部会議」と呼ばれる、各組織の決定事項を共有しあう会議があります。ここでは多くの組織で検討された決定事項が定期的に共有されるため、配布資料の情報量がとても多くなります。

配布資料の目的は「決定事項や事実関係の伝達」であって、プレゼン資料のように意思決定を促すものではありません。そのため、後でいつ誰が見返しても抜け漏れなく事実が伝わるよう、自然と情報量も多くなるのです。

場合によっては、過去の資料3~4枚をほぼそのまま縮小して1枚に盛り込まれているケースもあります。ただ、正確な情報伝達が目的の配布資料であっても、情報の盛りすぎは読み手の負荷を高めるため、できるだけ情報量を減らす工夫は必要です。

また、こうした配布資料が日常的に共有される組織では「プレゼンも配布資料も、情報てんこ盛りで当たり前」という文化が形成されがちです。こうした文化に流されず、読み手の状況を踏まえた適切な情報量に調整することが大切です。

改善テクニック(2)1スライド1メッセージ、伝えたいことは一番目立つタイトルで言語化する

プレゼン資料において「1スライド1メッセージ(1枚で言いたいことは一つに絞る)」というTIPSが多くのノウハウ本やネット記事で語られています。この手法はどうしても情報量が多くなる配布資料でも有効で、特に伝えたいことを大見出しとして設置するだけでも、分かりやすさは格段に向上します。

1枚のスライドの中から特に言いたいことを一言で伝えるのはなかなか難しいものです。しかし検討に時間がかかったとしても、この一言があるだけで読むことの負荷が大きく軽減され、情報も伝わりやすくなるため、資料の種類を問わず実践できると良いでしょう。

配布資料出所)環境省「地域循環共生圏について」

言語・文章編【3】つい、専門用語・略語・カタカナ語で「説明した風」にしてしまう

理由・心理)人は自分が置かれた環境の「当たり前な言い方のルール」に流される

『オトナ語の謎。』という書籍をご存じでしょうか。2000年代前半、ほぼ日刊イトイ新聞で連載されていた記事が書籍化されたもので、家でも学校でも教わらない「カイシャのオトナ達が自由自在に使いこなす言葉」が紹介されています。

その中には「その言葉をなぜ日本語で言わないのか?」と思わせる、多くの専門用語、略語、カタカナ語が並んでおり、これらがビジネスシーンで当たり前に使われていることを面白おかしく紹介しています。

こんな書籍が話題になるほど、私たちはいつの間にか仕事で、専門用語、略語、カタカナ語を使うことが当たり前になっているのです。そんな中、2016年に立教大学経営学部の学生が実施した「カタカナ語に関する調査」があり、こうした言葉を使ってしまう理由・心理が紹介されています。



この結果から、伝える側は「わざわざ日本語で説明するのが難しいから」といった、面倒くさいと思う気持ちや、「周りが皆使っているから」といった、流される気持ち、長いものに巻かれる気持ちが生じる場合が多いことが分かります。

反対に、受ける側は「意味が分からない」「モヤモヤする」「かっこつけたいのか」など、不快に感じる傾向が強いことも明らかになっています。

日常会話で使われている専門用語、略語、カタカナ語は、自然と資料の中でも使われていると考えられます。その結果、資料においても聞き手や読み手を置き去りにした「説明した風」の表現が増え、言いたいことが伝わらなくなっているのです。

参考文献)『オトナ語の謎。』(著:糸井重里)

調査)総合マーケティング支援を行なうネオマーケティングが運営するアンケートサイト「アイリサーチ」のシステムを利用したWEBアンケート方式の調査「カタカナ語に関する調査」によるもの

改善テクニック(3)専門用語や略語は、伝える相手の知識・理解度を汲んで選ぶ

とはいえ、伝える相手も知っている専門用語や略語を、わざわざかみ砕いて説明すると、逆に情報量が増えてしまいます。大切なのは、伝える相手の知識や理解度を想像した上で、専門用語や略語を使うべきか否かを意識的に判断することです。

改善テクニック(4)文字の割合を「漢字:3割 / ひらがな:6割 / カタカナ:1割」にする


漢字、ひらがな、カタカナの割合を意識することで、読みやすさ・伝わりやすさが向上します。この割合には諸説ありますが、漢字3割、ひらがな6割、カタカナ1割を意識するとよいでしょう。特にカタカナ語は調査の通り、伝わりにくいだけでなく印象を悪くする可能性があるため、極力減らした方が良いでしょう。

言語・文章編【4】つい、曖昧な言葉で説明してしまう

理由・心理)具体的な言葉に置き換えるのが面倒で、周りも使っているから

誰でも一度は「具体的には?」と問われたことがあるはずです。特に、文章自体の分かりにくさよりも、結論の曖昧さ、具体性の無さに関して「どういうこと?」と質問されて困った経験は無いでしょうか。曖昧な言葉で説明してしまうのには、こんな理由・心理が潜んでいると言えます。

  • 情報の正確さに自信がなく、できるだけ責任を負いたくないから
  • 具体的な言葉に置き換えるのが難しく、考えるのにも時間がかかるから
  • 周囲の人が皆、そういう言葉を使って説明しているから

特に厄介なのは3番目です。組織の中で抽象的な言葉による説明が当たり前になっていると、何が良くないのか?に気づくのも難しくなります。周囲の当たり前に流されず、丁寧に情報の正確さを突き詰め、具体的な言葉で伝える訓練が必要です。

改善テクニック(5)数字、事実、固有名詞、見たこと・聞いたことを入れる

コストに対する「高い・低い」、量に対する「多い・少ない」、期間に対する「長い・短い」といった言葉を使う際には、数字、事実、固有名詞、見たこと・聞いたことを含めると具体性が増します。

参考文献)『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける87の法則』(著:山口拓朗)

言語・文章編【5】つい、インデントだらけになってしまう

理由・心理)自分の論理を整理したインデント表現は他人も分かりやすいと考えてしまう

インデントとは、行頭に空白を設け、文字を他の行よりも下がった位置から開始する文字組みのことです。インデントを利用することで、情報の論理構造(親子関係)を分かりやすく表現できます。

インデントは、ソフトウェア開発のマークアップにも日常的に用いられ、エンジニアの方にとっては「ネスト」という言葉で馴染みが深い記述方法です。しかし、過剰な入れ子構造は開発者の間でも敬遠され、Googleの検索結果には「ネストの深さは闇の深さ」といったタイトルの記事が上位に表示されるほどです。

伝える側は、文章をインデントさせて論理構造を整理しながら記述できるため、書き終えた文章を「分かりやすく書けた」と感じます。しかし、読む側には何重にも入り組んだインデントがある文章は「読みづらい」と感じさせてしまうのです。

プログラミング言語や規約・約款といった、複雑な文章を分かりやすく正確に伝えるために、インデントは非常に有効です。しかし、本来ならインデントが無くても伝わる書き方・内容であった方が、読み手の負荷は低いはずです。

改善テクニック(6)インデントは2段階以内におさめる

「インデントは〇段階まで」という厳密なルールはありませんが、ドキュメント作成ツールの箇条書き機能から望ましいインデント段階のヒントを得られます。

PowerPointのみ5段階ありますが、その他のツールは3段階以降、行頭に空白は空くものの、文頭に付く印には同じ表現が繰り返し使われています。3段階がMAX値に設定されていると考えると、そのひとつ手前の2段階までの表現にとどめておくのが伝わりやすい表現であると、私は考えています。

視覚表現編【1】つい、空いたスペースを埋めてしまう

理由・心理)脳の特性として、人は空白に不安・危険・不快を感じるから

資料の中での空白が気になり、ついつい何かで埋めてしまうのには、人の脳の特性「空白の原理」が関係しています。これは無意識に不安・危険・不快を避け、安心・安全・快適を求める、という原理です。

ビジュアルデザインの文脈では、1998年の発売から25年以上、多くの方に愛読され続けている『ノンデザイナーズ・デザインブック』にて、「要素の中央揃え」と「空白の原理」の関係性について解説されています。

中央ぞろえは、初心者にもっとも使われる整列方法です。失敗の危険がほとんどなく、安心感を与えるからです。
『ノンデザイナーズ・デザインブック』(著:Robin Williams)

つまり、初心者ほど資料の何もない空白や偏った整列に不安を感じやすいため、要素を中央に揃えて安定させたり、空きスペースにイラストを入れたり、文章を長くしてスペースを埋めたり、といった対処が増えてしまうのです。

作り手は空白を恐れてしまいますが、資料を見る人にとっては一定の空白(余白)があった方が読みやすくなります。資料を仕上げる際には、空白の原理によって無意識にスペースを埋めようとしていないかを確認することが大切です。

参考文献)『ノンデザイナーズ・デザインブック』(著:Robin Williams)

改善テクニック(7)挿絵を無くしても意味が通じるなら無くす

よくあるのが、空いたスペースに挿絵を入れる対応です。なんとなく寂しい紙面に絵が入ることで、作り手にとっての不安は解消されますが、場合によっては一番伝えたいメッセージよりも目立ってしまうこともあります。

先ほど、システム1とシステム2という脳の働きについて紹介しました。実はこの2つのシステムとは別で、人の脳は「言語システム」と「イメージシステム」という2つの記憶システムを使い分けている、という話があります(二重符号仮説)。

「言語システム」は言葉を記憶し、「イメージシステム」は画像を記憶する脳の働きです。このうち、特に後者の画像が関与する情報は、言葉に比べて記憶として保持されやすいと言われています(画像優位性効果)。

それだけ、絵が入ることによる情報伝達力は強力なのです。「寂しいから」という理由で挿絵を入れると、もっとも伝えたいメッセージの主張が相対的に弱まり、結果的に分かりにくい資料になりがちです。

挿絵は「言葉によるメッセージをさらに強めたい時」のみと心得て、まずはメッセージの的確な言語化に力を注ぎましょう。

改善テクニック(8)余白は内側から外側に向けて広くする

文字や絵が盛り沢山に詰め込まれた窮屈なレイアウトは「分かりにくい」と感じさせます。ここで大切なのは、適切な余白の取り方です。上図のように、紙面における余白は原則として、内側から外側に向けて広くなることを理解しましょう。

すべてのコントロールが難しい場合は、一番外のマージンの広さと、行間(ラインスペース)を守るだけでも、資料の見やすさは格段に上がります。

参考文献)『レタースペーシング』(著:今市達也)

視覚表現編【2】つい、要素をずれたまま配置してしまう

理由・心理)人は「見た目の印象」の大切さを軽視しがち

要素の位置が少しずれていても、情報は読み取れます。仕事においては、些細な要素のずれの修正よりも、内容の検討に時間を割く方が大切です。また、そもそも多くの人は配置のずれに気づかない・気にしないことがほとんどですし、多少要素がずれていても説得力のある資料は沢山あります。

ではなぜ、誰もさほど気にしないであろう、些細な要素のずれを放置しない方が良いのでしょうか。実はこの問いに対して『インタフェースデザインの心理学』という書籍の中で、ヒントになる一つの研究結果が紹介されています。

  • 高血圧症の患者に、高血圧に関する情報をウェブで探してもらった。
  • いくつか見たウェブサイトの中で「信用できない」と判断されたものがあった。これらに対して寄せられた意見の83%が、見た目の第一印象(文字サイズ、ナビゲーション、色、サイトの名称)に対するものだった。
  • また「このサイトは信頼できる」と決める理由は「見た目ではなく内容」とする意見が74%だった。

簡単に説明すると「見た目が雑だと内容に興味を持ってもらう前に『信用できない』と思われてしまう」ということです。内容以前に、読み手から「読む価値が無さそう」と思われないためにも、些細な配置のずれを放置してはならないのです。

『インタフェースデザインの心理学』(著:Susan Weinschenk)

改善テクニック(9)見えない強い線を作る


すべての配置に意識を働かせるコツとして「見えない強い線を作る」という方法があります。要素を結ぶ見えない線が意識的に作られているほど、要素同士の関係性が強まり、認知負荷が下がると同時に丁寧な印象も生み出します。

これは資料に限らず、グラフィックデザイン全般に共通します。街で見かける広告やポスターも、すべて「見えない線」を作ることが大元にあり、その原則を守った上であえて崩したところに魅力や面白さが生み出されています。

画像出所)Pinterest

視覚表現編【3】つい、線や枠で情報を区切ってしまう

理由・心理)線や枠を使った情報の区別はもっとも簡単・手軽でつい手を出してしまう

人は自然と、意味合いの近い要素同士は近くに、意味が違う情報は離れた場所に配置して認識しようとします。資料作りに限らず日常生活の中でも、例えばキッチン収納において鍋や食器を、それぞれ分けて別々に収納するのも同じ原理です(近接の原則)。こうすることが情報を把握しやすいことを、人は日常生活の中で学び、自然と実行しています。

しかし、資料のような狭いスペースの中でこの原理・原則をうまく適用し、分かりやすく情報を区別するのは意外に難しいものです。工夫を重ねる中でまず手を出す手軽な解決策が、線や枠で情報を区切る方法なのです。

線や枠は意味のある「情報」ではなく、情報を区別するための「道具」のようなものです。紙面に情報以外の道具が増えれば増えるほど、主役である情報の存在感も薄まり、必要な情報を理解するための認知負荷も高まります。

余談ですが、資料の印象に対する言葉で「野暮ったい」「ダサい」「素人っぽい」「イケてない」といった言葉を言われた・聞いたことはないでしょうか。これらはまず区切り線や枠といった「無駄な要素が多い」ことが原因にあります。逆にこれらの無駄を一つでもなくすことで洗練された(無駄がない)印象に繋がります。

改善テクニック(10)線や枠を一つでも減らし、スペースだけで情報を区切る

改善対策はとてもシンプルです。一度作った資料を見直し、つい、線や枠で区切ってしまった箇所に対して、線や枠を無くして情報を区別できないか?を考えます。ここに意識を働かせると、自然と余白の取り方を工夫することになり、洗練された無駄のない印象を作りやすくなります。

また、どうしても余白をとるだけで情報を区別しづらい場合は、薄い色を背景に敷く方法も有効です。薄い色の塗りは線や枠よりも存在感が薄いため、洗練された印象を保つために有効です。

視覚表現編【4】つい、強調する箇所を増やしてしまう

理由・心理)多くの情報を伝えたいから、すべてを目立たせようとしてしまう

情報を伝える際、伝え手はできるだけ抜け漏れなく情報を伝えたいと考えます。ここもあそこも理解してもらいたい!と訴求ポイントが増えると、結果的にどの情報も目立たなくなります。

メリハリという言葉の意味を調べると「演劇などでセリフに強弱・伸縮・抑揚を付けること(減り・張り)」とあります。2つの言葉がセットで使われていることからも、強める箇所と一緒に弱める箇所も作らなければならないことが分かります。

改善テクニック(11)強調する箇所は3箇所までにして、控える箇所も作る

元のスライドには、文字に対するハイライト効果が沢山入っています。ハイライト効果は手軽な強調手法ですが、増えすぎると主張が埋もれやすくなるという欠点もあります。ハイライト効果を使わないことも検討の上、1スライドにおける強調箇所は目安として3箇所までにしましょう。

改善テクニック(12)「5:5」の強調比率を避ける

色を変える、空きを作る、など、メリハリの付け方は色々ありますが、もっとも強調効果が弱まる割合は「5:5」、つまり半々の状態です。両者が同じ主張度合になるため、結果的にどちらも強調されません。強調したい箇所の印象を強める際は、同時にどこを弱めれば良いかを考え、明らかに異なる状態(割合の目安は7:3以上)にすると、メリハリの効果が生まれます。

視覚表現編【5】つい、装飾やレイアウトといった絵作りに時間をかけてしまう

理由・心理)絵作り・装飾・レイアウトは、どこがゴールか分からないから

資料作りは「構成作り」と「絵作り」という2つの作業をこなさなければならない、複雑な作業です。この作り方・進め方を体系的に学ぶ機会がないまま業務で資料作りを任されると、右も左も分からず苦しい時間を過ごすことになります。

特に絵作りについては、多くの方が「ここまでできれば完了」という判断ができないため、ああでもないこうでもないと延々時間を使ってしまい、肝心の構成がおろそかになってしまうという、悪循環につながるのです。

そもそもPowerPointをはじめとしたスライド作成ツールは、ビジネス、家庭、教育の現場など、幅広いシーンでの活用が視野に入れられています。そのため、ビジネス文書では不要な装飾機能も備わっている点が、逆に私たちを迷わせ、もっとも大切な「メッセージの伝達」にかける時間を奪ってしまうのです。

改善テクニック(13)「作る」よりも「知る・考える」に時間をかける

資料の提出期日に間に合わせることを考えると、できるだけ早くPowerPointなどのツールで作業を始めたくなります。しかし、作るものが決まらないうちからツールでの作業に手を付け始めると、余計に迷走して制作時間が長くなります。

そんな状況を防ぐためにも、まず必要な情報を集めて「知る」こと、全体の構成を「考える」ことを優先しましょう。

構成作りにはツールを使わず、手書き+付箋を使うと手早く、効率的です。付箋は面積が小さいため、もっとも伝えたい情報くらいしかメモできないのが、かえって「何を伝えるべきか」を考えやすいのです。また、付箋の張り替えでページの入れ替えもシミュレートできます。

改善テクニック(14)「ダサい」「イケてる」といった曖昧な指摘の解像度を高める

身近に資料を見てもらった際に、「なんかダサい」「イケてない」といった指摘を受け、どこをどう調整すれば良くなるのか分からず、延々と調整に時間をかけてしまう方もいるのではないでしょうか。

「ダサい」も「イケてる」も個人の印象であって、正確に度合いを測れるものではありません。しかし、否定的な意見が出る資料には、要素、色、書体、レイアウト、写真やアイコンの使い方に、一定数の良くない表現が含まれています。

上記の表は、私の経験から「ダサい」「イケてる」を詳しく言語化したものです。曖昧な指摘に対し、どう調整して良いか悩まれている方は、作成したスライドをそれぞれの要素ごとにチェックし、改善してみることをおすすめします。

まとめ

誰でも「忙しいし…」「面倒だし…」「難しいし…」という自分の都合を無意識に優先してしまうのは、人間である以上は仕方がないことです。ただ、人に情報を伝えることが大目的である資料を作る際には、苦しい時に自分の都合よりも相手の都合に重きを置く、やさしい心を育てていくことが大切だと、私は考えています。

この記事で紹介した「他者視点(デザイナーの視点)」をヒントに、日常業務の中で作成する資料の品質を向上させ、少しでも多くの方が相手にメッセージを届けることの楽しさを覚えていただけると幸いです。

PR)プレゼン後に便利なAdobe Acorbat オンラインツールのご紹介

最後に、私たちビジネスパーソンの業務を常にサポートしてくれる、アドビ製品についてもご紹介させてください。

私はプレゼンテーションにはPowerPointを利用しますが、プレゼン後はファイルをPDFに変換して配布することがほとんどです。たまに困るのが、アドビ製品が入っていない社用PCで作業している際、ファイルをPDFに変換したり、PDFを編集しなければならないケースです。そんな時、ブラウザ上から利用できるAcrobat オンラインツールが便利です。

「オンラインだとファイルがアドビのサーバーに残るかもしれないからセキュリティ的に心配…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ファイルはアドビのサーバーで安全に処理され、ログインして保存しない限り削除されるため、安心して利用できます。

変換

PowerPointファイルをPDFに変換

PowerPointファイルをPDFに変換

もっとも活用するのはPPTをPDFに変換するケースですが、実は逆の変換(PDFをPowerPointに変換)も可能です。PDFはあるけど編集元のPPTが見つからない…といった時にも、この変換機能は活用できます。

PDFをJPGやPNG画像に変換

PDFをJPGやPNG画像に変換

資料内の特定スライドだけをピンポイントで配布したい時に活用できる変換方法です。書き出された該当スライドだけを配布できると、受け取る側も見るべきページのみを確認できます。

圧縮

PDFのファイルサイズを圧縮

PDFのファイルサイズを圧縮

特にビジュアルデザインに関わる職種柄、画像が沢山入ることでPDFファイルの容量が肥大化することがよくあります。そんな時、画質を一定品質に保ったままファイルサイズを落とすことができます。メール添付で資料を送る際にも便利です。

編集

PDF内の不要なページを削除

PDF内の不要なページを削除

資料の一部に社外に共有したくない情報がある時など、一部のページのみを削除することができます。

署名と保護

PDFにパスワードを設定して保護・暗号化

PDFにパスワードを設定して保護・暗号化

PDFに閲覧用のパスワードを設定できます。

デザイナーの筆者が企業内での研修講師、資料作りのご相談を承ります

この記事にご興味を持っていただけた企業の方々の中で「社内の資料制作スキルを向上させたい」といったお悩みをお持ちの方向けに、社内研修の講師のご相談をお請けしております。また、実際に分かりやすく美しい資料作成のご相談も承っております。ご興味を持っていただけた方は、ぜひお気軽に私のTwitterアカウントFacebookアカウントからお声がけください。


デザイナー採用担当が教える!ワンランク上のポートフォリオ10のヒント

2020年、転職にあたってポートフォリオを作った際の制作ノウハウ記事が、同じ境遇にある多くの方に見ていただけました。その流れでとある企業から「イベントでこの内容話してみませんか?」とお誘いをいただきました。せっかくなのでそのイベントでは記事にまとめた内容とは別のコンテンツを準備してお話させていただきました。

つくづく私は、ポートフォリオは自分目線の作品集ではなく、受け手目線のプレゼンツールであるべきだと考えています。イベントではそんな考えを「10のヒント」と題してお伝えしました。そして約半年経った今、当時のイベント動画が7日間限定で公開されることになったので、私もブログでその内容を公開したいと思います。

10のヒントは、ポートフォリオを作り始める前にどんな人たちにプレゼンするのかを考えた「準備編」と、作る際に採用担当者に伝わりやすくする技術を伝えた「制作編」の2部構成です。このエントリーですべてご紹介していますが、イベント動画の方がプレゼン形式でより理解しやすいと思います。お時間あればぜひ動画もご確認ください。

準備編

  • 1.企業の選定状況に合わせたポートフォリオを考える
  • 2.行きたい企業の特徴をリサーチする
  • 3.採用担当者が注目するポイントをつかむ
  • 4.募集人材に求められるレベルを正確に把握する
  • 5.未経験者枠に求められるものをつかむ

制作編

  • 6.読み手が理解しやすい順序・言葉・量を考える
  • 7.実績が少ない場合の対処を考える
  • 8.制作実績以外に掲載できることを考える
  • 9.ポートフォリオを第三者にレビューしてもらう
  • 10.選考で損をするNG手法

はじめに



最初に結論です。ポートフォリオ作りは「作品集を作るぞ」という自分視点ではなく、採用担当者の視点で考えることが大切です。読み手が知りたいことは何か?どんな体裁、どんな言葉、どんな構成なら興味を持ってもらえるかを考えると、自然と伝わりやすくなります。これらは「10のヒント」すべてに共通しています。

準備編

1.企業の選定状況に合わせたポートフォリオを考える





転職では複数社受けることがほとんどですが、内容をそれぞれ変えるべきか?という質問をよくお聞きします。もちろん会社の特性が違えば見せ方も変えるべきですが、限られた時間ですべての体裁を変えるのは時間と労力がかかります。まずどんな企業にも見せられる汎用的なベースを作った後、企業ごとにアレンジするのが良いでしょう。

例えば、受けようとする企業に明らかな得意領域があるなら、自分の実績もそこに近しいものを掲載した方が注目してもらいやすくなります。また全体の中で、それらの実績をなるべく最初に見せるのも、興味を惹く上で大切になります。もし余力があるなら、志望企業が大切にすることをくみ取ったオリジナルページを作るのも有効です。

2.行きたい企業の特徴をリサーチする





志望する企業については誰でも下調べをすると思います。まず最低限、Webサイトやブログ、SNSなどから公式に発信する情報を把握しておくのは必須ですが、そんな当たり前の情報を知っていたとしても採用担当者の気持ちは動きません。大切なのは「そんなことまでよく知ってますね!」と思わせる情報を把握しておくことです。

例えばその会社の社長や社員のSNSでの発言から、今注目しているデザインのトレンドや技術などの興味関心、問題意識を把握できます。また文章として残っていないイベントでの発言で印象に残った一言など、本人も覚えていないかもしれない情報を知っていると「うちの会社にとても興味があるんだな」と思われるでしょう。

3.採用担当者が注目するポイントをつかむ




採用担当者は自社に合う人材かどうかを見極める際、知識やスキルといった「ハードスキル」だけを見て判断しているわけではありません。同時に、相手に配慮ができる人か、意思疎通しやすい人かといった「ソフトスキル」も必ず確認しています。ソフトスキルがポートフォリオから見えるの?と思われるかもしれませんが、確実に見えます。

例えば読みやすいボリューム、構成、レイアウト、文章かどうかでも読み手への配慮は十分推し量れます。また掲載している情報から、過剰に自分を良く見せようと飾ったり、曖昧な言葉で説得力が無かったりすると、ソフトスキルが弱い人なのかな?と思われます。特に緑の文字で示したあたりがポートフォリオからも見えると心得ましょう。

4.募集人材に求められるレベルを正確に把握する




企業の募集要項には「リードデザイナー」「デザイナー」「アートディレクター」など様々な名称があります。それぞれ求められるレベル感が異なることは分かると思いますが、応募する際にはポートフォリオの中でも、自分がそのポジションに見合った人材であることを証明しないと、選考通過の可能性が低くなります。

基本的には経験年数で求められる力は変わります。経験年数が短ければ、制作力は未熟でも努力できる、素直であることが求められ、逆に経験年数が長いほど、制作力があるのはもちろん、教育できる、チームを作って動かせる、といった力が求められやすくなります。この傾向を元に、ポートフォリオの内容を検討する必要があります。

5.未経験者枠に求められるものをつかむ





募集要項によっては「経験の有無は問いません」といった言葉があります。ここで言う経験はすなわち「実務の経験がない」ということなのですが、同じ未経験者でも興味を持たれる・持たれないが分かれるのはなぜでしょう。ここではAさんとBさん、2人の行動パターンを示しているのですが、2人の間にどんな違いがあるでしょうか。

Aさんは勉強への投資もせず、やっているのはスクールでの課題だけ、デザイン業界を知るための活動量も少なめです。かたやBさんは学びの投資もいとわず、自主的に何かを制作し、業界への興味関心も高く、それらの行動を裏付ける情報も語れる人です。同じ未経験でもBさんのような人なら「興味あり」と思われるのではないでしょうか。

制作編

6.読み手が理解しやすい順序・言葉・量を考える



ここから実際に制作する際のヒントになりますが、まず気をつけたいのは実績の「順序」「言葉」「量」です。採用担当者の多くは通常業務と採用業務を兼務している人が多く、忙しい人がほとんどです。そんな忙しい人が短い時間でも実力を理解してくれる「順序」「言葉」「量」とはどんなものなのでしょうか。

まず順序は何事も結論→詳細の順に伝えること、言葉は抽象的ではなく具体的に伝えること、量は多すぎず少なすぎず丁度良いところを見極めること、この3つが大切になります。私が作ったポートフォリオもこれを徹底しており、多忙な採用担当者に「分かりやすいな」「読みやすいな」と思っていただけるようにこだわりました。

まず順序の話。スキルを伝える際にも、まず冒頭で「自分はUIやビジュアル作りを中心としつつ、それらをとりまく5つのスキルで構成されている」という全体像を示し、その後それぞれのスキルについて詳しく紹介するページを設けています。読み手を安心させるため、まず最初に話の全体地図を見せてあげるのは有効な手段です。

こちらは実績を紹介する部分です。実際の案件について紹介し始める前に、まず冒頭に具体的な言葉で「私ができるのは〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇です」といった形での説明を挟んでいます。実績ページの中からでもその人のスキルは推し量ることはできますが、最初に結論を示してあげた方が読み手が理解する負担を軽減できます。

こちらは実績紹介の詳細です。ここでも小さな文字を読ませる前にまずタイトルで、この案件で注目してもらいたいポイントを述べています。忙しい採用担当者は、沢山書かれた小さな文字すべてに目を通してくれるわけではありません。私は制作当時、このタイトルだけ読んでもらえれば理解してもらえるようにしておこうと考えました。


次は言葉。多くの人は、いかにも良いことを言ってそうな、それっぽい抽象的な言葉で説明しがちです。しかし採用担当者に選ばれるデザイナーの多くは、日頃から自分でも具体的な言葉でプレゼンしていることが多いため、応募者の言葉ひとつから説明能力の有無を見抜きます。日頃から具体的に言語化する能力を鍛えておくことが大切です。

最後は量。ここは人によって意見が分かれるため、一概に「〇〇件掲載するのが良い」と言い切るのは難しいところです。そこで私はTwitterで「何件見て通過・見送りを決めているか?」というアンケートをとってみました。すべて隈なく見る人が大半だったものの、次いで多いのは3~5件という結果は参考になるのではないでしょうか。

7.実績が少ない場合の対処を考える




制作期間が比較的長い案件が多い会社に所属し続けた場合や、経験年数が短い場合、自然と実績の数も少なくなります。しかしポートフォリオは実案件のみを載せなければならない、というルールはありません。自分が持てるスキルを証明できる情報なら、案件以外の実績も積極的に掲載して良いと、私は考えています。

例えば、実際に採用されなかった没案を、没になった理由を踏まえてブラッシュアップしたものを掲載するのもアリですし、世にあるWebサイトを自分なりに分析し「自分ならこう作る」と改善案を作るのも良い試みです。またプライベートで何かこだわりを持って作っているものがあれば、作り手としての熱意を証明する上で有効です。

8.制作実績以外に掲載できることを考える




「4.募集人材に求められるレベルを正確に把握する」でも触れましたが、経験年数が長くなるほど組織に貢献する力も求められやすくなります。そういう意味でも案件だけでなく、組織の生産性を向上させるためのスキル・実績を掲載するのも有効です。多くの場合は面接時に聞かれるのですが、それをポートフォリオで先に見せるのです。


組織に貢献する力とはすなわち、他者を巻き込んで生産性を向上させる働きです。後輩への指導、積極的な情報収集と組織内への共有、勉強会の企画・実施、車輪の再発明を防ぐ工夫など、ここで紹介したもの以外でも沢山あるはずです。ポートフォリオ作りをきっかけに自分自身の活動を振り返り、言語化しておくのも大切な営みと言えます。

9.ポートフォリオを第三者にレビューしてもらう






頑張って作ったポートフォリオは思い入れも強いため、特にレビューなどもなく転職活動に利用することが多いと思います。しかしポートフォリオに限らず、作ったものを客観的に見るのは大切で、自分では気づかなかった粗が必ず見えます。自分以外の誰かにレビューを依頼するのは、選考通過率を上げるためにも大切なのです。

身近にレビューしてくれる人が居ない場合も、有料レビューサービスやキャリアカウンセラーに見てもらう方法があります。またSNSで尊敬するデザイナーにレビューをお願いする手もあります。Twitterでアンケートをとりましたが、五分五分の確率で見てもらえるかもしれないという結果でした。思い切って依頼してみるのも良いでしょう。

10.選考で損をするNG手法






最後は選考を通過しない人に共通する「NG集」です。採用担当者はポートフォリオの表面的な美しさだけを見るのではなく、そこに記された情報の裏にある「採用希望者の人柄」を見ます。採用活動は事業を継続する上でも土台作りに等しいため、誤魔化しや偽りを見抜く上でも、厳しい視点で内容を精査しています。

最後に


あらためて結論です。ポートフォリオは採用担当者の視点を踏まえて作ることで、確実にブラッシュアップすることができます。ここで挙げた10のヒントを参照することで、転職希望者の方々の選考通過率が高まることを願っています。

お知らせ

この記事内容を話したセミナー動画を無料でご覧いただけます

本記事の内容を私が話しながら説明した動画が、今日から7日間限定でWEBSTAFFのサイトから配信されます。文章で読んでいただくよりも分かりやすいと思いますので、より詳しく理解したい方はぜひこちらをご覧ください。

【7日間限定録画配信】元UI/UXデザイナー採用担当が教える!ワンランク上のポートフォリオ作り10のヒント

Clubhouseで限定イベントを開催します

特別企画として3月19日(金)の20:00からClubhouseにて「NTT Com「KOEL」荒砂氏と語る!デザイナー転職、ココだけの話【ポートフォリオ編】by WEBSTAFF」というイベントを開催します。このポートフォリオ作りのイベントを企画してくださったWEBSTAFFの石川さんと、ポートフォリオ作りに関してあれこれと雑談する予定です。当日は私以外でデザイナー採用に関わっている方もゲストとしてお話いただく予定なので、そちらもぜひチェックしてみてください。


NTT Com「KOEL」荒砂氏と語る!デザイナー転職、ココだけの話【ポートフォリオ編】by WEBSTAFF

月に一度「NeWork」でデザイナーのゆる飲み会やってます

昨年から開催していたデザインシステム雑談会に集っていただいた方を中心に、今年に入って毎月いろんな会社のデザイナーが集まれるゆるいオンライン飲み会を開催しており、次回は【3/26(金)】に開催します。ちょっと変わっているのが、集まりの場をNTT Com が制作しているオンラインワークスペース「NeWork」を使っている点で、色々とある小部屋に自由に出入りしたり、気になる部屋に聞き耳を立てたりといった楽しみ方ができて、過去に開催した際にもとても盛り上がりました。デザイナーという言葉に興味を持たれる方であればどなたでもご参加OKです。私のTwitterアカウント宛にDMいただければお誘いします!

ポートフォリオ作りでお悩みの方はこちらの記事もどうぞ

元デザイナー採用担当が教える、選考通過率の高いポートフォリオ作成術


NTT Communications のデザインスタジオ KOEL に入社しました


入社日から時間が経ってしまいましたが…。9月1日からNTTコミュニケーションズのデザインスタジオ「KOEL」にUIデザイナーとして入社しました。KOELという名を初めて聞いたという方も多くおられるかと思います。KOELは2020年4月にNTTコミュニケーションズ社内に設立された、デザインを専門とする組織です。

チームにはNTTコミュニケーションズ、NTTグループ内でデザインの浸透に邁進してきた鉄人の方々、若くて有望なデザイナーたちが、日々社内外の様々なプロジェクトにデザインの力を発揮しようと邁進しています。そんな中で私もUIデザイン領域の専門家として、早速いろんなプロジェクトに関わらせていただいています。

KOELという名はちょっとユニークですが、この名前になんとなくピンと来るところがありました。聞くとこの名前には、あらゆるものを「超える」という意味が込められているとのことでした。ロゴには真ん中に斜めの切込みが入っていますが、この角度は人が物を投げる時に最も遠くへ飛ばせる40.89°になっているそうです。

NTTグループは元々国営でもあり、多くの大企業の中でも特に、お堅い、古い、といったイメージが私の中にもありました。そんな前提がありながらも、チームのメンバーと会話を重ねれば重ねるほど、NTTっぽいイメージではなく、良い意味でNTTらしくない、新しいイメージが自分の中に築かれていくのが分かりました。

NTTコミュニケーションズは通信事業の分野でまさに「社会のインフラ」を支える企業。民営でありながら、ある種の使命感が期待される企業でもあります。そんな中、デザインの力でお堅い社内の成約、古い価値観、社会における常識を超え、そして通信事業分野として物理的な距離を、デザインの力で超えることを信じる人がKOELには集まっています。

…と、かなりカッコよさげな話をしていますが、ジョインしてみてまだまだそうした理想に及んでいない部分も見てきました。巨大な組織の中でデザインを根付かせる活動は、予想以上に草の根的な動きが必要になる部分もあり、これまで自分が悩んだことのない問題にも早速ぶち当たりまくっています。

しかし、仲間として受け入れてくださったチームの方々は、皆デザインにおけるどこかしらの領域のプロフェッショナルでありつつ、自分たちの組織に誇りを持っていて、フランクで前向きで、一緒に問題を解決していこう!と協力しあう、ポジティブな空気が漂っています。コロナ渦でリアルに会ったことも無い人がいるにも関わらず、このチームワーク感は半端ないです。

社会インフラの常識を超えるなんて、自分ひとりの力では到底難しい話です。しかし、NTTコミュニケーションズの各領域のスペシャリストと、デザインを専門とするKOELが力を合わせれば、理想として掲げる「Smart World」の実現に、自分も少しでも貢献できるのでは?と思ったりもしています。

最後に所信表明的な話で、ちょっとした夢を語っておきます。3年以内でどのくらい目標達成できたか、また振り返ってみたいです。

  • コーポレートサイトのリニューアル
  • 各種プロダクト、webサイトのデザインガイドラインの整備
  • 新規事業立ち上げに関わるプロダクトのUI制作
  • 社内における「分かりやすく美しい提案資料」制作力の向上
  • 社内における「webサイト制作力」の向上
  • デザイン業界でのKOELのプレゼンス向上
  • KOELで一緒にUI領域を広める仲間を採用
  • 何かしらデザインに関する書籍の出版

KOELについて詳しく知りたい方は、ぜひ以下のリンクをご参照ください。それでは今後とも荒砂とKOELをよろしくお願いします!

KOEL DESIGN STUDIO by NTT Communications
note KOEL
note KESIKI | カルチャーデザイン03 チームへの誇り


元デザイナー採用担当が教える、選考通過率の高いポートフォリオ作成術


ここ最近、転職するにあたって約10年ぶりにポートフォリオを作りました。私は元々ポートフォリオ作りが苦手で、力が入りすぎていつまでたっても完成しない…といった状況になりがちだったのですが、今回はわりとすんなり完成しました。

その理由は、ここ数年でデザイナーの採用に関わり、採用担当者の目線で沢山のポートフォリオに目を通す機会が増え、作成において気をつけなければならない点がなんとなく分かるようになったからだと感じています。

そこで今回は、こんなポートフォリオなら選考を通過しやすいのでは?と思うことをまとめてみたいと思います。尚、考え方は企業や採用担当者によって異なるので、あくまでも個人の考えとしてご参照ください。

作成前に踏まえておきたい認識

そもそもポートフォリオとは

まず辞書で「ポートフォリオ」の意味を調べてみると、「紙挟み」「折鞄(おりかばん)」とあります。これは書類をまとめて入れておくケースのようなもので、必要に応じて書類の差し替えができるものです。

過去の私を含め多くの人が、ポートフォリオは一つの完璧な完成品を作るもの、と誤解している節があります。しかし元々の意味合いを踏まえても、提示する相手によって都度内容を調整するもの、というのが正しい認識です。

就職活動で使うポートフォリオなら、受ける企業の業務に合わせて掲載内容や掲載順を調整すべきですし、営業ツールとして案件を受注するためのポートフォリオなら、ターゲットとする顧客の悩みに近い参考事例を中心に掲載することになります。

ポートフォリオは「作品集」ではなく「解決事例集」


ポートフォリオはデザイナーの作品性・作家性を相手に見せつけて優越感に浸るものではありません。課題解決のステップや考え方と共に最終的なアウトプットを事例として見せ、相手に安心してもらうためのツールです。

上図の上半分のように「自分の実績を見てくれ!」という気持ちが優先されると、受け手に響きにくくなります。逆に「私と仕事をすれば具体的にこんなことをするのでメリットがありますよ」と伝えられると、良い結果に結びつきます。

見る側の視点に合わせ、どんな絵や言葉が入っていたら、自分という人材が役に立つと思われるかを、とことん突き詰めて考える必要があります。

採用担当者の興味を引くための5つのコツ

1)構成要素はプロフィール1割:実績9割にする


上図のように、転職活動で必要になる書類はポートフォリオ以外にもいくつかあって、それぞれに役割があります。実績以外は履歴書や職務経歴書で満たされるので、ポートフォリオには実績のみを掲載するのが合理的です。

とは言え、名前を含む簡単なプロフィールくらいはあった方が親切なので、それらを1割程含めたバランスが良いと思います。くれぐれも不要な情報でページ数をかさ増ししないようにしましょう。その方が採用担当者の確認の負担も少なくなります。

2)自分語りは書類選考通過後にする


選考ステップで初めてポートフォリオを目にする書類審査では、何よりもまず実績が求めるレベルに適っているかを見定めます。そのため、志望動機を除いて上図のような「自分語り系コンテンツ」は読み手にとって優先度が低い情報になります。

書類審査を通過して実際に面接で顔を合わせる時に、十分に詳細を伝える機会があるので、ポートフォリオの中では長々と語らないようにしましょう。もし語るとしても、ボリューム少なくサラッと見せるようにしましょう。

3)企業と自分の特性が重なる案件を目立たせる


前提でお伝えした通り、ポートフォリオの役割は「この人と仕事をすれば自社にメリットがある」と感じてもらうことです。そう考えると、受けようとしている会社の実績と近い実績が目立っていた方が、受け手としても入社後の活躍を想像しやすくなります。

例えば、インタラクティブ性の高いキャンペーンサイト作りが得意な制作会社に対して、コーポレートサイトの実績を強調して掲載しても、「この人を採用して活躍してくれるのだろうか…?」という気持ちにさせてしまいます。

対象企業の業務内容や実績をよく確認し、企業の強みと自分の強みが重なる実績を中心に掲載することが大切です。

4)未踏の領域にチャレンジする際は自主製作を含める


しかし、グラフィックデザイナーからwebデザイナーに転身する場合、LPなどが得意なデザイナーがプロダクト系のUIデザイナーを目指す場合など、対象企業の得意領域に対して、自分の経験や実績がマッチしない場合もあります。

新たな領域にチャレンジする勇気は素晴らしいものですが、採用担当者の気持ちとしては「いくらこの領域に強くても、うちの得意領域で強みを発揮できるのかな…」と不安になるのが正直なところです。こんな時に有効なのが、自主制作の実績です。

例えばUIデザイナーを目指すなら、Daily UIで作った100画面を並べるのも良いし、web制作経験がないけどwebデザイナーになりたいなら、自分なりに企業サイトのリニューアルデザインを作って掲載するのも良いかもしれません。

精神論的な言葉になりますが、採用担当者に「熱意」を届けるのはとても大切です。ここで言う熱意は一重に「数」と言えるでしょう。とにかく、誰が見ても驚くほど沢山の自主制作を掲載すれば、採用・不採用はともかく、熱意は必ず伝わります。

圧倒的な数が見えると「実績はないけど、ここまでやる気があるなら入社しても頑張る人なのかもしれない…話を聞いてみようかな」と考えてもらえるかもしれません。

5)体裁も自分の強みを見せる手段ととらえる


ポートフォリオの体裁について、webデザイナーだからブラウザで見れる形式の方が印象が良いのでは?紙にプリントしたポートフォリオが無いと手抜きと思われるのでは?といった悩みはないでしょうか。

実際のところ、こんな形が最適という答えはありません。採用担当者は、どんな体裁でまとめているかよりも、自分の能力をうまくプレゼンテーションするために最適な体裁を選べているか、に注目します。

例えば開発もデザインも両方極めたいなら、ブラウザで確認できるポートフォリオがあった方が強みを証明できます。紙媒体とweb媒体、どちらも極めたいなら、HTML版と表紙や紙にこだわった冊子版、両方作った方が強みを理解してもらいやすくなります。

また、書類審査が通って対面での面接になった時、どんな形がプレゼンしやすいかを考えておくのも大切です。プレゼンの場では自前のPCにポートフォリオを映して見てもらうのがベストの自己紹介方法なら、紙のポートフォリオは不要でしょう。

また、オンラインのポートフォリオ作成サービスを使う手もあります。個人的には、デザイナーなら見せ方にも独自のこだわりを持ってほしい気がしますが、求めるレベル感に対する実績が伴うなら、問題ないとも思います。

ポートフォリオの作例


ポートフォリオサンプル(PDF形式:6MB)

ここからは実際にポートフォリオの作例をご紹介します。上記のリンクからPDF形式でご覧いただけます。このサンプルは私の直近のポートフォリオをベースにしたもので、いくつかの部分をダミーのサンプルに置き換えたものになります。

サンプルと実際の私の実績が混在しますが、画像マークやダミーと書いた部分は仮のものと認識いただければと思います。本来なら転職用に作ったものをそのままお見せできればよいのですが、非公開も含まれるため、こんな形をとらせていただきました。

とはいえ、何も画像がないとイメージしづらい部分もあるので、2011年以前に関わった昔のプロジェクト画像で一部使えそうなものは掲載しています。古い案件イメージでちょっと恥ずかしいのですが、何卒ご了承ください。

もしも私が実際に関わった直近のプロジェクトが気になる方は、株式会社ベイジの実績ページをご確認いただいて、各ページの制作クレジットから私の名前を探していただけると嬉しいです。

尚、私は開発力に強みがないことや、面接の場でスライド形式での説明したいと考えていたため、すべでPowerPointで作成しています。

全体構成


全体の構成は5つに分かれており、レスポンス広告のセオリーである結果、実証、信頼、安心の流れをになっています。これは購入や申し込み、問い合わせをより多く獲得する上での情報設計の基本で、webサイトや広告でもよく取り入れられています。

表紙


ポートフォリオは作品集ではないとお伝えしましたが、それは無個性とイコールではありません。採用担当者は連日多くのポートフォリオに目を通すため、一目見て「何かセンス良さそう…」と感じると、中身をじっくり見ようという気持ちになります。

表紙の役割は、中身に興味をもってももらうためのきっかけ作りです。私のポートフォリオの表紙が皆さんの目にどう映るかは分かりませんが、目指したところは「なんとなくセンス良い人かも…」と思わせるところでした。

ちなみに、一応このビジュアルの意味もあります。デザイナーは複雑な物事をシンプルで分かりやすく伝える仕事なので、複雑な要素とシンプルな要素が共存したビジュアルになっています。

特長(結果:自分に何ができるのか)


まず特長パートで、端的に自分にどんな能力があるのかを伝えます。最初にフィロソフィーという形でメッセージを入れ、自分の力を3つにまとめて説明しています。このパートで、この後どんな実績があるのかを予測できるようになっています。

物事を分かりやすく伝えるコツは、大枠→詳細の流れで説明することです。本に目次があるように、人は最初に全体像を見通すことができると、安心して次の話を聞く心の準備ができるのです。

スキル(結果:さらに具体的に何ができるのか)


ここでは先に挙げた3つの特長を、実際のスキルという切り口で形を変えて伝えています。UI・ビジュアルデザインを中心に、プロジェクトマネジメント、ブランド設計、ライティング、情報設計、UXリサーチと、図解で先に全体像を示しています。

その後は、それぞれのスキルをさらに具体的な言葉で伝えています。各説明文に加えて、具体的なアウトプット、利用するツールなども含め、より対応できる内容をイメージしてもらいやすくしています。

またここでは見る人を退屈させないために、目を惹くビジュアルを組み込んでいます。文字だらけのプレゼン資料は飽きてしまうので、適度に退屈させないための工夫を入れるようにしています(UI・ビジュアルデザインの画像は2011年以前の実績です)。

実績:デザイン(実証:どのように実行するのか、したのか)


ここから実績紹介です。前段と同じく先に全体像として、私の場合は実績に3つのカテゴリがあることを伝えています。また一つ工夫している点として「私にできるデザインとは」という見出しで、できることを具体的に言語化したページを作っています。

忙しい採用担当者はとにかく結論を知りたがっています。採用希望者の方からあらかじめ、自分にできること具体的な言葉でまとめておくと、採用担当者が多くの実績から自分の目と頭で特長を把握する手間や負担が少なくなります。

そしてこちらが代表的な実績です(掲載実績情報はすべてダミーです)。思い入れのある実績が沢山あっても、忙しい採用担当者はすべてに目を通さない可能性もあります。見る人に負担を考慮して最低限見て欲しいものを選びぶのが良いでしょう。

各実績の1ページ目は、大見出しでプロジェクトの概要を伝え、詳しい状況説明を箇条書き3つでまとめます。加えて制作期間、担当領域、URLと、ここも大枠の概要から少しずつ、内容をブレイクダウンして説明する形になっています。

そして2ページ目は各案件ごとに、特に自分のこんなスキルが役立った、こんな点を工夫した、という解説を掲載しています。ここが特に案件紹介の肝で、採用担当者が最も興味を持つ部分になります。

代表実績の選定基準も重要です。サンプルの場合、1ページ目で対応可能なwebサイトの幅広さを、2ページ目で得意とする作業の幅広さを、それぞれ満たした選定になります。基準は自分のスキルを最もうまく説明できる組み合わせで選ぶと良いでしょう。

その他の多くの実績は得意領域ごとにカテゴライズして、小さなサムネイルでサッと見てもらえるようにします。ここで印象付けたいのは各案件の品質ではなく、経験が豊富にあることです。

実績がこれ以上の数になると、採用担当者の貴重な時間を無駄にし、確認の負担を増やします。この時点で興味を持ってもらえて面談に臨めるなら、面接の場でさらに色んな案件を見てもらっても良いでしょう。

実績は内容によってフォーマットを変えると良いでしょう。私の場合はロゴ制作にも強みがあるため、それらを紹介するページも設けています。これらも流れは同じで、主要案件を強調して見せた上で、その他は流し見できる作りになっています。

実績 – ライティング・登壇(信頼・安心:第三者視点でどんな評価か)



ライティング・登壇以降のページは実際の私の実績になります。

私のスキル含まれるにライティングと登壇は、デザイン制作実績のような実際の技術とは違った側面を持ち合わせています。SNSでの記事のシェア数や書籍への寄稿などは、第三者からの評価を証明するものでもあるので、信頼・安心を担うコンテンツとしてここに掲載しています。

各実績ともに、できるだけ見出しやタイトル画像、写真を露出させ、実際の記事URLを辿らなくても内容が理解できるようにしています。忙しい採用担当者は詳細URLまで目を通す可能性は低いため、こうした配慮はとても大切です。

プロフィール


プロフィールは最後の最後に1ページだけ設けています。ページ数は少ないのですが、本当に興味を持ってくださった方がさらに私のパーソナリティを追えるよう、各種SNSやブログへのリンクを設置しています。

まとめと補足

提出前のチェックリスト

以上が、私が考える採用担当者に理解してもらいやすいポートフォリオの作り方でした。チェックリストとしてまとめると以下のようになります。作成時に見合わせると、改善のヒントが見つかるかもしれません。

  • 内容の割合はプロフィール1割:実績9割になっている
  • 全体の構成は結果、実証、信頼、安心の流れになっている
  • 転職しようとする企業の事業内容に合わせた実績を掲載している
  • 未踏の領域に転職する場合は熱意が伝わるボリュームで自主制作を掲載している
  • 最も見てもらいたい実績は5つ程度に絞り、各案件を詳しく紹介している
  • 内容説明は、まず全体像を伝えてから詳細を語るようにしている
  • 制作実績には制作期間、担当領域、実物が確認できるURLを記載している
  • 第三者からの評価が分かる情報(ブログ記事、登壇、受賞歴)を掲載している
  • 自分のパーソナリティをさらに確認できる情報にリンクさせている
  • 体裁は、自分の強みが伝わること、面接でプレゼンしやすいことを考慮している

とは言え、ポートフォリオの表現に制限はありません。要は自分の魅力が担当者や企業にしっかり伝わるようなアプローチ方法を意識して選べるかどうかが大切です。

新卒デザイナーは例外

尚、ここまで長々とテクニカルな話をまとめましたが、新卒でデザイナーを目指す人のポートフォリオに限っては、ここまでの配慮は求めません。粗削りでも、モノづくりに対する情熱が見えれば、それだけでポテンシャルを見込まれる可能性があります。

逆に言えば、数年でも現場でデザイナーを経験している場合、転職時に自分本位で見る人への配慮が足りないポートフォリオのまとめ方をしていると、実際のデザイン業務でも配慮が足りない人なのでは?と思われる可能性もあります。

ポートフォリオが良くても選考を通過できない場合もある

ポートフォリオ以前に一つ把握しておきたいことがあります。それは、企業はチームの構成バランスを考えた上で求人を出しているため、募集中のスポット枠も数が限られているということです。

スキル的に申し分無くても「丁度昨日、枠が埋まってしまった」となると、選考を通過できなくなります。またスキルが募集要項に対してオーバースペックすぎてもマッチしない場合があります。

最後に

ここでまとめたことでもそれ以外でも、ポートフォリオの作り方について質問してみたいことがあれば、Twitterからお気軽にご連絡ください。受け手の気持ちを考えたポートフォリオを作って、ぜひ転職を成功させてもらえればと思います。

荒砂智之のTwitterはこちら

お知らせ

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本記事に関連したセミナー動画が、今日から7日間限定でWEBSTAFFのサイトから配信されます。よりポートフォリオ作りでヒントを得たい方はぜひこちらをご覧ください。

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Clubhouseで限定イベントを開催します

特別企画として3月19日(金)の20:00からClubhouseにて「NTT Com「KOEL」荒砂氏と語る!デザイナー転職、ココだけの話【ポートフォリオ編】by WEBSTAFF」というイベントを開催します。WEBSTAFFの石川さんと、ポートフォリオ作りに関してあれこれと雑談する予定です。当日は私以外でデザイナー採用に関わっている方もゲストとしてお話いただく予定なので、そちらもぜひチェックしてみてください。


NTT Com「KOEL」荒砂氏と語る!デザイナー転職、ココだけの話【ポートフォリオ編】by WEBSTAFF

月に一度「NeWork」でデザイナーのゆる飲み会やってます

昨年から開催していたデザインシステム雑談会に集っていただいた方を中心に、今年に入って毎月いろんな会社のデザイナーが集まれるゆるいオンライン飲み会を開催しており、次回は【3/26(金)】に開催します。ちょっと変わっているのが、集まりの場をNTT Com が制作しているオンラインワークスペース「NeWork」を使っている点で、色々とある小部屋に自由に出入りしたり、気になる部屋に聞き耳を立てたりといった楽しみ方ができて、過去に開催した際にもとても盛り上がりました。デザイナーという言葉に興味を持たれる方であればどなたでもご参加OKです。私のTwitterアカウント宛にDMいただければお誘いします!

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約9年半在籍した株式会社ベイジを退職します

2020年8月31日をもって、約9年半在籍してきた株式会社ベイジを退職します。長い間、腰を据えて働き続けられたこと、とてもありがたく感じています。

退職エントリーの意義についてはいろんな議論があります。私の場合は、自分自身の経験を整理し、ひとつの区切りとして後で振り返るために書いてみたいと思いました。

9年半勤めた中で学んだことの中でも特に大切だと思ったことを、9年半にちなんで9つにまとめてみます。

1.戦略を持つ

戦略とは、自分の強み・弱みをすべて理解した上で、目的を達成するためのシナリオを考えることです。9年半の間、会社も自分も成長を続ける中で「戦略」と向き合い続けたように思います。

ベイジで戦略の力を感じたのは、提案するwebサイトはもちろんですが、自社の顧客を変えたことが特に記憶に残っています。私が入社した当初は代理店経由の仕事も多く、思うように自分たちのペースでプロジェクトが進行できないことがよくありました。

そこから数年の間に状況は一変しました。年間の問い合わせ件数は400件以上、ほぼすべて直取引案件、加えて自分たちと相性の良い顧客を選べるようになりました。計画的に自社のブランドを築き、情報発信を続け、組織作りを行ったからこそ成し遂げられたものだと思います。

私は過去に仕事の依頼が少ない会社に勤めたことがありました。デザイナー自ら仕事を取って来いと言われ、広告代理店のオフィスに出向き、知り合いのデスクに名刺を置いて存在感を示す、御用聞きに行ったこともあります。その経験をすべて否定はしませんが、そんな経験があるからこそ、ベイジの顧客が変わりゆく姿が特に目に焼き付いたのだと思います。

戦略を持つことは、仕事・プライベートに関わらず、生きていく中で常に向き合っていきたいと考えています。

2.情報を発信する

ベイジはいろんな方から「情報発信が盛んな会社」として認知されています。しかし入社当初の私はそこまで情報発信に積極的ではなく、Twitterアカウントも鍵をかけていたくらい消極的でした。しかし、企業・個人どちらにおいても、情報発信の恩恵が大きいことを学びました。

まず企業の視点。私が入社した当時、社員は3名でした。そこから現在の20名規模に至るまで情報発信を継続する中で、相性の良い顧客や採用希望者との接点が多く作られました。自分たちの考えを発信するからこそ、そこに共感してくれる人々が集まります。

そして個人の視点。自分でコンテンツを発信し、社外の人の目に止まることで接点が生まれ、社内とは違った角度の考え方に触れることができました。加えて興味を持ってくださる方のお声がけから、自分の活動の幅を広めることもできました。

情報発信が大切という話はSNS上でもよく目にします。しかし組織の状況や自分のキャリアに大きな変化をもたらす効果を実感できる人は少ないと思います。情報発信の影響力を肌感覚で沢山実感できたことは、貴重な経験でした。

3.法則を見つける

目に見えているもの、目の前で起こっていることは、そこだけ見るとひとつの物事・事象でしかありません。しかし歴史を辿ったり、同じ種類の物事・事象と比較することで、共通点や法則を見つけだすことができます。

例えばwebサイトなら、デバイスの進化に伴うUI変化の法則、コンバージョン率を高める情報設計の法則、読まれやすい記事タイトルの法則など、数え始めればキリが無いほど沢山あります。

これらをいち早く見つけ、独自のメソッドとしてまとめると、物事の成功確率や、組織全体の生産性を高められるようになります。また情報発信に繋げれば、同じ領域に関心を持つ人々の注目を集められるようになります。ベイジの情報発信の大元には、この法則の発見があります。

こうした法則は、普段ぼんやりと生活していて見つかるものではありません。メタ視点で物事を観察し、調べることで、初めて見えてくるものです。働き続ける中で、法則を見つける目を養うことの大切さを沢山学びました。

これを仕事だけでなく、趣味や自分の好きなことの領域まで含めて実践できると、生きることが楽しくなると感じています。

4.知識を更新する

キャリアを重ねて仕事の成功確率が上がると、身に付けた能力だけである程度仕事が回るようになります。しかし組織の中でのポジションが変わることで求められる業務内容が変わることもありますし、テクノロジーの進化に伴って専門領域で求められる技術が変わることもあります。

そんな時、過去に身に付けた能力だけでやりくりしようとしても、やがては通用しなくなり、新しい力を持った人材に淘汰されます。そうならないためには知識の更新が必要になります。

専門領域の知識を学ぶ基本は読書です。先人の経験や知恵が詰まった本は、場所も時間も選ばず、効率的に知識に触れることができます。9年半を振り返ると常に鞄に本が入っていたように思います。

また、セミナーや勉強会に参加して、同じ業界の人と交流することも、知識を更新する方法として最適です。特に同業者と交流して得られた知識は本には書かれていないものなので、表向きには語られない失敗談や悩みはとても参考になります。

そして今度は、得た知識で自分の目の前の課題を解決します。その体験こそが、他では得られないさらに特別な知識になります。この知識更新のサイクルを回せるようになると、環境の変化に強い人材になれるのです。

5.好きを突き詰める

受託のweb制作は、お客様から「専門家の意見を聞きたい」と言われることがよくあります。そこで、自分が経営者ならこう判断する、なぜなら…と自信を持って発言できなければ、お客様からの信頼を得られません。

自信を持って意見するには、専門的な知識と当事者意識が必要です。この2つは誰もが当たり前に大事と言いながらも、なかなか簡単に身に付くものではありません。どうすれば身に付くのでしょうか。

9年半勤めた中で私なりに導き出した答えは、自分の「好き」をとことん突き詰める、ということです。デザイナーやエンジニアになりたい!と思った時のワクワクした感情を、自分の中の大きな根にするのです。

とは言え、好きな気持ちが揺らぐこともあるでしょう。圧倒的に自分よりも好きな度合いが強い人と接した時「自分はそこまで好きじゃないのかも…」と感じてしまうこともあります。私も何度もそんな経験がありました。

しかし、そんな時こそ自分の大元にあった「好き」を大切にして、再び一から育てていく。毎日水を与えるように知識を蓄え、なぜこれは〇〇なんだろう?と関心を持ち続けた人が、専門的な知識と当事者意識を持ち合わせたプロフェッショナルになれるのだと思います。

好きだから目標が持てる。目標があるから関心を持てる。関心があるから知識が身に付く。知識が身に付くから自分の考えが正しいかどうか判断できる。このサイクルを作ることが大切だと思います。

6.正攻法を選ぶ

ベイジを象徴する言葉の一つに「正攻法」という言葉があると思っています。正攻法とは、奇策ではない正々堂々とした攻め方のことです。

制作物で例えるなら、気をてらったデザインでなくメッセージが正確に伝わるデザイン、SEOであればブラックハットでなくホワイトハット、雰囲気が良さげで耳障りの良いコピーでなく正確で具体的なコピーなど。行うことのすべてが正攻法です。

裏の手や奇襲は、一時的に人の気をひくことはできたとしても、長期的に見て良い結果を生まないことがほとんどです。そうした手を徹底的に排除して、正攻法を積み上げた後には、何事にも揺るがない功績や結果が残ります。

私は元来、大真面目で堅物というよりも、気の抜けたところもあれば、少し斜めからの意見で自分の存在を示すようなところがありました。しかし結局回りまわってそうした行動が良い結果を生まないことを、沢山体験してきました。

何事においても正攻法を積み上げることが、大きな結果を生むために大切なことを実感しました。

7.当たり前をやる

人も、組織も、webサイトも、当たり前にやるべきこと、やった方が良い結果を生み出しやすくなることがあります。

例えばwebサイト。結果を出せていないwebサイトの多くは、当たり前に必要なことができていなことがほとんどです。何か特別に新たなコンテンツを作るよりも、サイト内でコンバージョンに影響が強い箇所を特定して、そのポイントを改善した方が良い結果に繋がりやすいはずです。

顧客対応なら、来客があれば声を出して挨拶をする、メールは速やかに返信するといった行動、スタッフ同士のコミュニケーションなら、仕事を依頼する際はプロジェクトの背景から丁寧に伝えるなど、当たり前にやった方が信頼されやすいはずです。

これら一つひとつの物事に、難しいことはほとんどありません。しかし、当たり前に必要なことを当たり前にできている人や組織は多くないのです。だからこそ、当たり前を積み重ねるとそれだけで優位性が高まるのです。

大きな結果を生むために、何か特別で誰もやっていないことに目を向ける前に、本来やって当たり前なことに目を向ける方が大切であると、働き続ける中で学びました。

8.粘り強さを持つ

行動指針の一つに「失敗しても、再挑戦しろ。失敗のリスクから逃げていると、失敗は失敗のままで終わる。」という一節があります。

失敗したこと一つひとつは点です。そこからすぐに何かを生み出されるものではありません。しかし、失敗を繰り返す中での学びが結び付くと、長い線になります。その線が繋がった先に、驚くような成功や成長の体験がありました。

私の場合、特に印象深いのは2017年に大きな反響を読んだブログのバズ経験です。それまで何度となくチャレンジしたブログで泣かず飛ばずのエントリーを量産したこともありましたが、挑戦し続けた先に思っても見ない景色が待っていました。

最近だと、社内の活動となっているTwitter道場に参加するメンバーの中にも、自分のツイートに対して無反応だった時期を乗り越えたことで交流が楽しくなってきたといったエピソードを語っています。

振り返ってみると、成功よりも失敗したことの方が遥かに多くありました。しかし、私の中にはこの行動指針が腹落ちしていたこともあって、9年半という長い間、働き続けられたのだと思います。

9.礼儀・礼節を持つ

仕事をする中で最もストレスを生むのは人間関係です。憎しみ、恨み、疑念を抱いたまま仕事で成果を出すのは難しいものです。人と人が接する限り、必ず摩擦は生まれるものですが、できる事ならこうしたストレスは減らしたいものです。そこで大切になるのが礼儀・礼節です。

言葉の定義を調べてみると、礼儀は「社会生活の秩序を保つために人が守るべき行動様式」、礼節は「貴人に対して礼を行う作法」とあります。簡単に言うと、相手の立場に立って考え行動することです。

当たり前のことと言えばそれまでですが、ベイジの仕事はすべてこの礼儀・礼節が大元で大切にされているように思います。

具体的な行動を挙げると、対顧客なら、オフィスに来ていただいたら皆できちんと挨拶をする、オフィスは常に美しく掃除しておく、返答は待たせない、仕事をお断りする場合も丁寧に対応するといったことです。

対スタッフ同士のやりとりなら、誰かが何かを発表したら必ずその感想を伝える、自分が伝えやすい説明でなく相手にとって分かりやすい説明を行う、不快に思われるコミュニケーションがあったら指摘・教育する、なども含まれます。

また、業務の一部を依頼するパートナー・協力会社についても、外注や業者といった言葉で呼ばないことなども徹底されています。

礼儀・礼節は主に人の行動に対する言葉ですが、自社で作るwebサイトのコンテンツも、大元にはこの考え方が大切にされているように思います。

最後に

私はここで挙げた内容をすべて満足に実践できたわけはありませんでしたが、今後生きていく中でも、これらの学びは常に自分への問いかけとして心の中にあり続けると思っています。

9年半前は丁度東北の震災があり、世の中が混乱していました。30代となる大切なキャリアを決める重要な局面でしたが、私の目にはベイジ以外の選択肢は映りませんでした。それだけこの会社の持つ考え、哲学に惚れ込み、自分でもそれを体現できる人になりたいと思い、下北沢のとあるマンションの地下にあった小さな会社の扉を叩きました。

そこから30代の時間すべてをつぎ込み、本当に沢山の経験を積ませてもらいました。このエントリーで学びを改めて振り返ってみると、当時その選択をした自分は間違っていなかったと感じています。

現在、世の中はコロナの影響で混乱していますが、送別会も社内メンバーがオンラインで企画してくれました。リアルな飲み会の場では経験できなかったであろう、一生心に残る素敵な送別会を作ってくれたのがとても嬉しかったです(一部その様子を張っておきますね)。

在籍中、お世話になった方々にはこの場を借りて深くお礼申し上げます。本当にありがとうございました。9月からはまた新たな領域でチャレンジしていく予定です。SNSを通じてご報告していこうと思っていますので、もし気にしていただける方いらしたらぜひフォローしてください。

荒砂智之のTwitterはこちら

それでは今後とも私荒砂と、株式会社ベイジをよろしくお願いします。


ノンデザイナーズ・デザインブック20周年記念の特典に寄稿しました

デザイナーではない方にもデザインの原則を分かりやすく解説した名著「ノンデザイナーズ・デザインブック」が発売されて20年。この記念すべき節目を迎えるにあたり、期間限定で特典PDF(非売品)プレゼントキャンペーンが行われます。

この特典は「The Non-Designer’s Design Book Missing Pages 2018」と題され、「本書が2018年に書かれたら」「自分が書いたとしたら」という視点で、18名のデザイナーが本書のためだけに書き下ろした内容が掲載されています。光栄なことに、今回私もこの特典PDFの制作に関わらせていただきました。

こちらはキャンペーン期間中、Twitter、Instagram、Facebookなど各種SNSでノンデザイナーズ・デザインブックに関するコメントをハッシュタグ「#ノンデザ20周年」を入れて投稿した上で、専用の応募フォームから応募すると特典ダウンロードURLが届く、というルールです。ぜひご興味のある方はコメントを投稿して応募してみてください。

応募フォームがどこにあるの?というツイートを見かけましたので、こちらにもリンクを掲載しておきます。

ノンデザイナーズ・デザインブック20周年記念特設サイトはこちら
特典PDF「Missing Pages 2018」応募フォームはこちら

本書の出会いはキャリア10年を超えた頃

私が本書の凄さを実感したのはデザイナーとしてのキャリアを10年以上重ねた30歳の頃と遅めでした。当時、自分の経験則を元に感覚的にレイアウトを考えることが多かったのですが、感覚値であるが故、正確さ、一貫性、再現性が弱いことに悩んでいました。そんな時に手に取ったのが本書(ちなみにカバーはオレンジのバージョン)です。

紹介される「4つの基本原則」を読み進めるにあたり、自分がそれまで「なんとなくこっちの方が良い」と判断していたことに対して、なぜそうするのが良いのか、なぜそうしない方が良いのかが詳しく言語化されており、キャリア10年の中で経験してきた細かな悩みがひとつひとつ解消され、とても腹落ちしたのを記憶しています。

本書は私のケースように、ある程度キャリアを重ねる中で積み上げてきた失敗が先にあり、どこかで自分のデザイン力に、正確な判断、安定したクオリティ、成功パターンの再現性の難しさに壁を感じた人が、改めてデザイン力の土台を再構築する際にも、絶大な力を発揮する良書です。

そうした意味でも初学者の方だけでなく、デザイナーを続ける中でまだ本書に目を通したことの無い方にも、改めて手にとっていただきたいと思います。

また私の場合はこちらのブログ記事「ウェブデザインに応用するデザインの4つの基本原則」を自主的にまとめたことで、さらに基本原則の理解を深めることができました。ピックアップしているサンプル表現が少し古いですが、ぜひこちらもご一読いただけるとより一層理解が深まるかと思います。

ウェブデザインに応用するデザインの4つの基本原則

18名のデザイナーが共同執筆した特典PDF「Missing Pages 2018」

私はこの企画の中で「わかりやすい図の作り方に応用する基本原則」と題し、作図する際にどのような視点でデザインの基本原則を考慮しているのかを、サンプルの解説を中心に4ページほど執筆させていただいています。

多くの方に御覧頂いた「誰も教えてくれない『分かりやすく美しい図の作り方』超具体的な20のテクニック」の中では細かく触れなかった、デザインの基本原則について少し掘り下げており、どちらかと言えば初学者の方に見ていただきたい内容です。主に以下のような内容について説明しています。

  • 本当に伝えたいことをひとつ見つけ出す
  • ルールと要素を可能な限り減らす
  • 図に個性を出さない
  • 言葉をコントロールする

その他、私以外の名だたるデザイナーの方々が執筆された内容も、それぞれ独自の視点が交えられていて、とても読み応えがあります。過去にノンデザイナーズ・デザインブックをお読みいただいた方にも、ぜひご覧いただけると嬉しく思います。

セミナー「ノン・デザイナーズ・アカデミア」も開催予定

このプロジェクトに関連して、6月にセミナーも開催され、私もそこで登壇させていただく予定です。内容についてはまだ検討中ですが、本書をお読みいただいた方の学びがさらに深くなるような内容にしたいと考えています。お時間ある方はぜひそちらにもご参加いただければと思います。

最後にこのプロジェクトにお声をかけていただいた株式会社スイッチ鷹野雅弘さま、出版を担当されている株式会社マイナビ出版角竹輝紀さま、また共に執筆に参加されたデザイナーの方々に、改めてお礼を申し上げます。キャンペーンはまだ始まったばかりですので、引き続きよろしくお願いいたします。

ノンデザイナーズ・デザインブック20周年記念特設サイトはこちら
特典PDF「Missing Pages 2018」応募フォームはこちら


UIデザイン提案に不可欠!顧客の納得度を上げるために意識すべき4つの条件(スライド付)

去る6月22日(木)に渋谷で行われた、株式会社アジケ主催のイベント「UX dub〜UX/UIの現場、最前線〜」に登壇させていただきました。今回のエントリーはこのイベントで発表させていただいた内容のフォロー記事になります。

日頃のクライアントへのUIデザインの提案において、なかなか作ったものに対して納得していただけない、スムーズに話が進まない、といった状況は、誰しも経験するものかと思います。しかし近年、私自身の経験を振り返ると、以前に比べてスムーズに提案が進むようになったと感じていました。

そんな時にお誘いいただいた、このイベントの「UX/UIの現場、最前線」というキーワードを聞き、私の所属するベイジではどのようにパートナーをリードしてUIに落とし込んでいるのか?をお話してみようと思いました。

この内容について、我々が作るWebサイト自体のUXやUIを深く追求することももちろん大切なのですが、そこに加えて我々自身がクライアントに最良のCX(カスタマーエクスペリエンス)を与えることも大切だと考えています。そこから、主に以下4つの内容でお話させていただきました。

  • 1)良好な関係性を築きやすい顧客を選んでいるか
  • 2)顧客が安心できる進行を心がけているか
  • 3)論理的なデザイン提案を行っているか
  • 4)専門家としてリーダーシップを発揮しているか

1)良好な関係性を築きやすい顧客を選んでいるか(P15)

企業に所属する個人のデザイナーで関与できる人は限られますが、良好な関係性を築けそうな顧客を選んで仕事をすることは、プロジェクトを円滑に進める上でも非常に重要なポイントです。計画性が低く、制作会社を下に見ているクライアントからプロジェクトを受注すると、スムーズな進行が阻害される危険性があるということです。

ベイジではプロジェクト開始前にここを厳しくジャッジしているため、クライアントから不条理な難題を押し付けられることもなく、建設的にプロジェクトを進めることができています。実はここをしっかり抑えている会社は、デザイナーにとっても非常に仕事がしやすい環境であると言えるのです。

しかし、ジャッジする以前に問い合わせ自体が少なければ、仕事を選り好みすることはできません。そこで必要になるのが、戦略的にクライアントになりうるターゲットに対して、常日頃から自分たち自身の強みを積極的に発信し続ける行動です。オンライン・オフライン問わず様々なチャネルから自分たちの強みを可視化しておくことで、プロジェクトを進める段階で良好な関係性を築きやすくなります。

UIデザインを提案する以前に、そもそものところでこの道筋を作っているかどうか、道筋に沿って強みを理解してくれている顧客を引き寄せているかが大切になるのです。

2)顧客が安心できる進行を心がけているか(P22)

プロジェクトを通して、常にクライアントは不安を感じているものです。提案内容自体のクオリティの高さは当たり前に求められるものとして、その上でクライアントに安心してもらえるような質の高いコミュニケーションを心がけることも、提案内容の納得感に間接的に影響を与えると考えています。

その点、コミュニケーションは非常に属人的になりがちです。上流工程から下流工程に渡って、人が変わっても質の高いコミュニケーションを継続するためには、チーム全体でクライアントにどのように対応すべきか?を共有しておく必要があります。具体的に言えば、以下のようなコミュニケーションルールを整備しておく、ということです。

  • プロジェクト定義書の共有
  • WBSによるスケジューリング
  • メールは誰かが1時間以内に一時返信
  • 打ち合わせ前日までに当日の確認資料とアジェンダを共有
  • 打ち合わせ後は1営業日以内に議事録を共有
  • 必要事項はWBS以外にイシューリストで担当者と機嫌を明確化
  • 行動指針と日報で何のためのルールかを認識

実はここでお伝えしている内容は、ベイジのコーポレートサイトの中でお客様向けに紹介しています。我々自身が約束する行動を、プロジェクトが始まる前段階で見える化しておくことも、一つのコミュニケーション作りと言えます。こちらでさらに詳しくその内容を紹介していますので、ぜひご覧ください。

プロジェクト管理 | 株式会社ベイジ

3)論理的なデザイン提案を行っているか(P29)

ベイジではデザイン提案の際、完成したビジュアルだけを見せるようなことはありません。提案したデザインに対して、なぜこうすべきなのか?を論理的に説明します。プロジェクトやクライアントの特性によって順序や内容は変わりますが、代表的な説明事項として以下の5つをご紹介しました。

デザインの役割定義(P31)

UIデザインはコンテンツ、構造、機能、情緒表現の4つで構成されています。その中でも、提案するビジュアルデザインにおける役割は機能と情緒表現になります。この話を最初にクライアントと共有しておくことで、デザインの見た目の表層的な部分(機能や情緒表現)と内容自体の根本的な部分(コンテンツや構造)の問題は分けて考えましょう、と話ができるようになります。

ターゲットの再確認(P35)

ベイジでは戦略提案の時にターゲットを定義して共有していますが、デザインを提案した際には、個人的な好みの話、抽象的な感性の話、なんとなく好き(嫌い)といった話が出てきがちです。そうした際に事前に定義したターゲットを振り返り、作り手である我々がどう思うかではなく、ターゲットならどう考えるか?という視点に立ち返りましょう、と伝えるようにしています。

ブランドの明確化(P41)

ブランドは基本的に目には見えので、具体的な言葉にして共有しておく必要があります。ベイジではクライアントのブランドを、属性・ファクト(誰も否定できない事実)、機能ベネフィット(機能面での効能や作用や利便性)、情緒ベネフィット(顧客が受ける精神面での便益)、ブランドパーソナリティ(ブランドを擬人化するとどういう人なのか? )、ブランドタグライン(ブランドの約束)で構成されるピラミッドに構造化して共有しています。

トレンドやセオリーの啓蒙(P45)

クライアントによっては最近のWebデザインの特性を知らないこともあります。タッチデバイスの普及によるUIの大きさの変化、マルチデバイス化に伴うデザインのシンプル化をはじめとした、技術革新によるUIデザインのトレンドやセオリーの変化の話です。これらあらかじめ説明しておくことで、提案するデザインに妥当性が生まれ、認識の違いによる無駄な議論を回避することができます。

デザインの提案(P50)

実際のデザイン提案の際に気をつけるポイントは3つあります。1つは提案の幅をもたせること。提案物の数を増やせばいいという話ではなく、クライアントが予想しない部分まで考え抜かれていないとデザインに対する納得感というものは得られにくいものです。そして2つ目は意味をきちんと説明すること、3つ目は対面することです。経緯や意図を、必ず会って説明することが大切です。

4)専門家としてリーダーシップを発揮しているか(P57)

この「専門家としてのリーダーシップ」が特に、クライアントにデザインを納得してもらう上で大切になるポイントです。クライアントは我々に対して専門家としての意見を求めているため「この場合◯◯するのがベストです」「◯◯と考えるべきです」と自信を持って対応できなければなりません。

具体的に言えば、言われたままの要望をそのまま返すような行為、こういう姿勢であればあるほど、提案は後手後手にまわって、クライアントの信頼は獲得できなくなります。また、もしもクライアントの認識が間違っていれば指摘してがあげる態度も必要です。

そして、専門家びいきな説明をしない、という点も重要です。「デザイン的に見るとこれが優れている」とか、「デザイナー的にはこうした方がいい」といった、根拠のない話は回り回って提案物の評価に悪影響を及ぼします。

まとめ

Webサイトを作る作業は、デザインデータやHTMLを作ることだけではなく、クライアントとの関係性や、チームの関係性を作ることも含まれます。単純にブラウザに映し出される絵だけを作るという意識を変え、それらを作るために関わる人々とどのような関係性を築いていくか、という部分まで配慮することで、クライアントからの信頼を得ることができるのではないでしょうか。

UX dub について







※掲載写真はすべてアジケさん撮影

今回はアジケさん初主催のイベントで、告知当初からUX/UIに関心の高い多くの方々から多くの申し込みがあり、結果的に大盛況のイベントとなりました。このイベントの趣旨を、アジケの神田淳生さんから以下のように伺っています。

dubとはレゲエ用語で、曲をリメイクすること。UXの視点を活用してWebサイトやサービスをより成長させることや、クリエイターが集まって一つのサービスを(リ)メイクすることをイメージして付けたタイトル。

アジケさんのオフィスではBGMにdubを流しているというところから、イベントの最中も緩いdubのBGMが流れており、非常にアジケさんらしい、緩やかなムードのイベントでした。今後もこのイベントは継続的に開催されるとのことです。

今回一緒に登壇されたのは、オハコ菊池涼太さん、アルチェコ熊澤宏起さん、スタンダード鈴木健一さん、そしてアジケの梅本周作さんといった面々で、各社の業務を通じたUX/UIに関する、まさに最前線の情報が語られました。私がお話した内容以外の部分は、すでに仕事の早い方々がまとめてくださっていますので、こちらに関連情報として掲載する形とさせていただきます。

今回の登壇の機会を与えていただいたことで、私自身が日々行っているデザインの提案や、デザイン提案にまつわるコミュニケーションがどのようにクライアントとの関係性作りに影響を与えているのかを、改めて見直すことができました。お誘いいただいたアジケの梅本さん、神田さんに深く感謝いたします。

レポート記事

【UX dub Vol.1 イベントレポート】UX/UIデザインの現場、最前線
【イベントレポート】UX dub「UX/UIデザインの現場、最前線」(前編)
【イベントレポート】UX dub「UX/UIデザインの現場、最前線」(後編)
「UX/UIの現場、最前線」イベントレポート

UX dub 座談会

独立部隊、掛け持ちナシ…?クライアントにコミットするUX/UIデザイン4社の仕事術とは
これから進むべき道とは?UX/UIデザイン会社が思い描く未来像
職域を超えろ。ステレオタイプに捉われない、UX/UIデザイナーのあるべき姿とは


デザイン力に伸び悩むあなたが劇的にブレイクスルーするための3つの解決策

デザイナーとして数年間のキャリアを積み上げた方なら、ある程度の実力を身に付けてきたと感じる反面、自分の成長が「停滞している」と感じることはないでしょうか。幾つもの仕事を経験し、デザインの表現や作業スピードには自信が付いた、これまでの経験に沿って仕事をこなすことで大きな失敗にはならないけれど、でもどこか大きく進歩もしない、そんな状況です。

私も20代後半、特にその悩みを感じることがありました。正直なところ、そうした自分の停滞を感じつつも、見て見ぬふりをしているような心境もありました。そこには、会社に所属していてある程度の実力があれば、目の前の仕事は経験則からそこそこの力でこなすことができるし、急に進退を迫られるような切迫した状況には陥らないことなどが影響していたと言えます。停滞に対して「そこまで急いで対処する必要はない」「いつかは変わる」と自分の今の環境を肯定していたのです。

しかしこうした停滞に対する静かな焦燥感は、成長したいと思う気持ちの現れとも言えます。そこを一歩自分から乗り越えることで状況は変化するものです。私の場合、そのきっかけは転職にあり、今所属するWeb制作会社ベイジに入社後は、年を重ねるごとにその停滞から脱出していくことができました。

今回は私の経験を元に、停滞を感じるデザイナーがその状況を打破し、ブレイクスルーするために改めて見直すべきだと考えていることを3つご紹介しようと思います。

  • 1)デザインを基礎から突き詰めて学び直す
  • 2)広義のデザインに触れることができる環境に身を置く
  • 3)練習・勉強することの楽しさを知る

1)デザインの基礎を徹底的に突き詰めて学び直す

30歳の頃、私はすでに3社の制作会社を経験していました。新卒で入社した大阪の小さな広告制作プロダクションでは右も左もわからない状況からスタートしましたが、退職する時にはある程度仕事を任せてもらえるようになり、デザインに対する自信も付いていました。

そこから上京して就職した会社では多くの方から「ちやほや」されました。自分で言うのもなんですが、基本的に前向きな性格であるがゆえに、任せてもらえる仕事には心血を注いでチャレンジし、土日だろうが深夜だろうが、与えられたデザインのクオリティを上げることに集中する日々でした。

そんなところから、荒砂はデザインができる、と声をかけていただける状況になり、大きな挫折も少なく、順調な毎日が続きました。そしてその上り調子の時に会社が傾き、あえなく転職することになりました。

そこからは非常にもどかしく、苦しい期間でした。転職活動を続ける中で、自信を積み上げてきたはずのデザイン力は社外で通用するほどの芯の強さが無いことに気がつきました。一歩会社の外に出てみると、もっとレベルの高い仕事を、圧倒的なスピードでこなしている優秀な方が多く居ました。

正直に言えば、社外の人と積極的にコミュニケーションをとったりすることが無かったこの頃、自分の市場価値がどのレベルのものなのかは見て見ぬふりをしていました。なぜなら、会社の中に居れば優位な立場を追いやられるようなこともなかったからです。

しかし転職する機会に、自分の力がいかに井の中の蛙であったかを思い知りました。そしてそこで改めて思ったことが、もっと骨太で、どこでも誰にでも通用する、市場価値の高いデザイナーになりたい、ということでした。

そんな時、私は今でも第一線で活躍しているクリエイターのブログをよく見ていました。そこで語られるデザインに対する想いや、作られたもののクオリティの高さを横目で見つつ、なんとか自分もこうした人たちと同じ土俵に入れないものか、と考えていました。

そんな時に出会ったのが現在所属するベイジです。もともと代表がブログでデザインやwebビジネスに対する学びを公開していたのを外から眺めていたのがきっかけでした。自分もこうして外に語れるような、強いデザインに対する思考力が欲しいと心底思いました。

そして30歳でベイジに入社するわけですが、正直なところ、1~3年目は特にボロボロでした。それまで積み上げてきた感覚頼りのデザイン力はベイジで求められるデザインクオリティには耐えかねるもので、日々葛藤と焦り、力量不足に悩む日々でした。まさに基礎からの再スタートです。

デザインにおいて、ベイジでは4つの基本原則のおさらいからスタートしました。本を読み、練習し、実践することの繰り返しです。もちろん最初からうまくいくわけではなく、原則に反した判断から何度もやり直す日々が続きました。

思い返しても辛いと感じたシーンは多々ありますが、そんな中でもしぶとく継続できたのは、転職の際に経験した自分のデザイン力の薄っぺらさにほとほと嫌気がさしていて、その時の自分から少しでも脱却したい、という気持ちが常に根底にあったからだと振り返っています。

ベイジのデザインの特長は、デザインの基本原則やビジネスで求められる論理性、デザイナーびいきの視点に囚われないことに徹底的に忠実なところと、時にその原則うんぬんをさて置いて、パッと見で魅力的なのか?グッと人の心を引き込む力が宿っているのか?という、いわば論理性を度外視した感性の部分を、同時にバランス良く追求し続けるところにあります。

写真一つ、書体一つ、色一つ選ぶにしても、なぜその写真、書体、色である必要があるのか?という理由と共に、一目見て人の心ハッとさせるような魅力があるのか?という部分を徹底的に自分自身に問い続け、磨き続けていくような作業です。

実は私のように、感覚値だけである程度のデザインレベルに到達する人は世の中に五万といるのです。しかしその上のレベル、ユーザの心に強く正確に働きかけたり、企業のビジネス上の成果に論理的にひも付けて提案できるようなデザイン力に到達するためには、徹底的に感覚値や自己都合を排除した上で、ネガティブチェックに耐えうる論理的なデザインを導き出す、自分への厳しさが求められます。

私はそもそも感覚値でステップアップしてきただけに、自らそうした思考に至ることはできなかったと振り返っています。しかし、転職を期に基礎から再度積み上げることが求められる環境を選んだことで、そうした自分の特性を抑えた上で、デザインに対する思考を深めることができました。

そうして入社から6年、自分のデザインはお客様のビジネスの中での機能を果たした上で、様々なデザインポータルサイトにも掲載されるようになり、自分のデザインに対する考えをブログで社外に発表して、時には大きなバズを生み出すことも経験しました。30歳を過ぎた頃、自分が欲しいと考えていた「強いデザインに対する思考力」が少しは身につきました。当時の自分が今の自分を見たら、それこそタイトルにあるような「劇的な成長」だと感じるのではないかと思います。

当時の私と同じように、デザインが好きで誰にも負けたくなくて、でも本当に自分の力が外で通用するのかについては実は不安である、実は自分の力が人と比べて薄っぺらいことを知っているけれど、見て見ぬふりをして誤魔化している、今居る環境にとどまっていれば危機的状況に陥ることはないと思うけれど、実際に状況が変わった際のことを想像すると不安で仕方がない、そしていつかは本質的でどこでも通用する、強いデザインに対する力をいつかは身につけたい、と考える人が居たとしたら、もう一度基礎から徹底的に学びなおすことができる環境に身を置くことは、最適な選択肢の一つなのかもしれません。

しかし20代後半のタイミングを逃すと、こうした環境に身を置くことは難しくなります。なぜなら30代を過ぎた人材には基礎の学び直しよりも、チームをリードするような働きが求められるようになるからです。でもこの記事のタイトルにピンと来た方なら、まだ間に合うのではないでしょうか。

2)広義のデザインに触れることができる環境に身を置く

書体、配色、写真を選ぶといったデザインの手法は「狭義のデザイン」と言えます。まさに先に述べたような内容です。その上で、クライアントに対してwebを使ったマーケティング施策の提案や、UXデザインの手法を取り入れたサイト構築を行う上流工程の仕事は「広義のデザイン」の意味合いが強くなります。

例えば我々が制作に携わる企業サイトはテクノロジーの進化と共に、役割が変化しています。上の図を見ていただくと分かるように、1994〜2002年頃は企業の看板的な意味合いや、会社案内としての意味合いが強くありました。存在するだけで価値があった時代と言えます。この頃のWebデザインは見た目の新しさ、表現の面白さといった「狭義のデザイン」であっても十分に効果を発揮しました。

その後、徐々に役割は戦略実現のためのツールとして、またコミュニケーションのプラットフォームとしての役割を強め、リードの獲得、ブランドの形成への働きかけが強く求められるようになりました。そこでは前述したような表現手法にあたる「狭義のデザイン」よりも、人の心をどのように動かすのか?という「広義のデザイン」の力が求められるようになったのです。

ここで最初の話に戻りますが、実は停滞を感じるデザイナーは、ある意味狭義のデザインは一定の水準まで到達した人であると言えます。そしてその後のさらなる成長を望むのであれば、広義のデザインに目を向けなければならない、と私は考えています。

元々Webであれグラフィックであれ、デザインにはこの広義のデザインの考え方が根本にあります。しかし、就職した企業によってはこうした考え方、働き方を求められず、いかに表現のスキルを上げるかだけを課題として掲げられたり、広い意味でのデザインの意味に触れることができない環境も多く存在します。そうした企業の属した場合、デザイナーとしての働き方は時代の流れと逆行する形となって先細りしていきますし、さらなる成長を感じる事も難しいでしょう。

その環境を具体的に言うなら、プロジェクトの背景も満足に伝えられず、ただ決められた企画に沿って絵を作り、そこに自分の考えを反映しようと思っても、上流での決定事項は変えることができず、「なぜこんなもの作らないといけないんだ」という疑問が出やすい職場で働くようなイメージです。

もちろん、狭義のデザインのみに特化して働くキャリアもありますし、その働き方が自分の中でのデザイナー像である、と考える人もいます。しかし昨今のAI技術の進化に伴って、こうした狭義のデザインの部分については自動化が進み、細かなデザイン表現の場が奪われていく時代であることも認識しておくべきでしょう。

そうした中、心のどこかで広義のデザインへの関与を望む気持ちがある場合には、できるだけ早いうちにそうした考え方を重要と考える環境に身を置くことが大切です。ある程度、狭義のデザインである表現手法を追求することも重要ですが、例えば私のように転職などのタイミングで、デザイナーとしての働き方、未来を見据えて自らのデザイナーとしてのポジションを見直すことも大切です。

この点において、私は現在の会社に入社した後、ビジネスの戦略、マーケティング、ブランディング、UXといった広義のデザインを、直クライアントに提案する機会に多く関わることができています。制作会社も色々とありますが、こうしたビジネス戦略に強みを持たない企業に属した場合には、広義のデザインに触れる機会は少なくなります。

デザイナーとしてキャリアを積み上げる上では、最終的に自分はどういったデザインを作り、どういった規模の、どういった人々に影響力を発揮していくのか?を考えるべきです。そして自分の強みを知り、戦略的に進むべき道を検討する必要があります。

3)練習・勉強することの楽しさを知る

この記事を読んでいるあなたは、練習・勉強することは好きですか?学校でいうところの勉強とは、授業を受けてその内容を頭に叩き込み、テストでその回答を自分の頭から引き出す、というものです。本来、人はこうした自己成長に喜びを得られるものですが、なかなかその勉強すること自体の楽しさを知っている人は少ないものです。

先にも書いた通り、私はもともと根っから感覚値で物事を判断して結論を出しやすい性格のため、熱心に厚い本を読んで歴史から基本を学んだり、広い事実からセオリーを導き出したり、といった活動とは、学生の頃から無縁の生活を送っていました。

しかし、好きという気持ちは根底にあるため、意識的に「練習・勉強するぞ」とならずとも、興味の働くままに物を作ってみたり、目の前の課題をクリアするために努力したり、といった行動はその都度とってはいました。ある程度まではこうした行動パターンでも成長することは可能です。

ですが、人にその知識を体系立てて説明できたり、説明を受けた人が同じように再現できるレベルの勉強と、自分だけの感覚値としてプラスになるというレベルの勉強には大きな差があり、歳を重ねるごとに基礎体力の差に開きが生まれてきます。

私のように、場当たり的でミニマムな勉強方法は、目の前の課題をクリアする上では一時的に機能することもありますが、より高いレベルの仕事をクリアする時、不確定要素だらけのビジネス上の課題に対する答えを求められる時、チームや顧客に対する強い影響力が求められる時ほど、通用しなくなります。それはどんな企業、どんな職種を選んだとしても同じです。

私の場合はベイジで活動を続ける中で初めて、練習・勉強することの楽しさを知りました。例えば、先にも挙げたデザインの基本原則の知識を自分なりにまとめて資料を作り、勉強会を開いて人に教えることは、強く自分の知識として定着しました。また、デザインポータルに掲載されているような優秀なデザインの模写を練習として一定期間続けたことで、仕事の中ですぐに活かせる力になりました。

両方に共通するのは、自発的に積み上げた知識を人の目に触れるところにアウトプットしていたことです。こうすることで、知識は完全に自分の引き出しに格納され、いつでも自由に引き出すことができるようになります。これがいわゆる勉強というもの、学びというものであることであることを知りました。

伝えた人から「為になった」とコメントをいただくこと、そして何より、自分がその知識を利用して新たに大きな課題を解決できるようになった時には、場当たり的な勉強では得られなかった、自分の実力となったことへの実感と、喜びを得ることができます。自発的に勉強を重ねれば重ねるほど、自分の確固たる力と喜びを同時に得るサイクルが出来上がるのです。

勉強すること、練習することには苦労が伴います。私はよくこの話の際に、DRAFTの宮田識さんの言葉を思い出します。以下、著書である「DRAFT宮田識 仕事の流儀」からの抜粋です。

毎日の仕事に振り回されていたらダメですね。徹夜続きで何もできないっていうのは最悪。野球でもサッカーでもゴルフでも、スポーツ選手は試合とは別に、ものすごい量の練習をしています。バットが外れて負けた。そうしたら死ぬほどバッティング練習するじゃないですか。PKで負けた。そうしたらぶっ倒れるまでPKの練習をするじゃないですか。それを考えたら、「デザイナーは甘いんじゃないですか?どれだけ練習してますか?」ということですよね。世の中、簡単にうまく行く方法はない。自分が好きで選んだ仕事なら、やってみろと言うしかない。練習するにしても、言われたことをこなすだけじゃダメですよ。自分の意思で動かないと身に付きませんから。自分から求めて初めて分かること、覚えることがあるんですよ。それが長く記憶に残る。自分だけのアイデアソースになっていくんです。

誰もが凡人です。そうした凡人が結果を出すには、努力・練習するしかありません。これを毎日苦しい中でも継続することで、結果的に喜びや楽しみを感じることができるようになるのです。

私はこの「勉強する・練習する」ことを学んだのは、タイミングとして遅すぎたと感じています。世の中の優秀な方は若い頃から、勉強することの喜びと楽しさを知っていて、それを自然と生活の中に取り入れていることから、早くに高いパフォーマンスを発揮できているのです。

しかしそんな私でも30歳から勉強や練習を改めて意識しはじめたことで、人に自らの知識を伝え、自分の力で学んでいく喜びを覚えながら、伸び悩みや停滞感を脱出することができました。コツコツと自分が求められる力に対して前向きな勉強・練習を積み重ねる人であれば、私のように長い時間をかけなくても、短い期間で想像もしていなかった自分のポテンシャルを引き出すことができるはずです。

あとこの話で一つ気をつけておかなければならない話があります。それは自分が今いる環境が、練習や努力が報われる環境であるかどうかを客観的に把握しておくことです。こうした頑張りが報われない環境に居続けるのは、あなたのキャリアにおける大切な時間を無駄にします。そうした時は思い切って環境を変える必要があると、私は考えています。

まとめ

以上が、デザイナーの成長における停滞をブレイクスルーするために、私が改めて見直すべきだと考えている3点です。総じて言えば、まず基礎となる土台を積み上げることができる環境を選ぶこと、そしてそこで感覚的な判断基準を排除した論理的な考え方を身に付けるための活動を積み重ねること、が重要です。停滞期は辛いものですが、考え方一つ、行動一つでそれまでの停滞が嘘のように、ガラッと視界が開ける可能性は十分にあると考えています。

お知らせ

そして、もしもここでお話した内容に少しでも共感した、興味が湧いたという方がいらっしゃれば、ぜひ私の所属するベイジという会社もブレイクスルーのための環境として、選択肢に入れるのも良いと思います。採用サイトからご応募いただいて、お話を聞かせてください。もしくはFacebookTwitter経由で話しかけていただいても構いません。もちろん現状のスキルはある程度考慮されますが、それよりもここでお話した私の経験や考えに共感いただける方であれば、ぜひ積極的に応援していきたいと考えています。

興味を持っていただけた方はこちらから株式会社ベイジの採用情報をご覧ください


Service Design Night vol.4 ~事業会社とデザイン会社 デザイナーぶっちゃけトーク:スキルアップやキャリアパスについてどう思う?~への登壇にあたって考えたこと

2月28日(火)に渋谷で行われた「Service Design Night vol.4 ~事業会社とデザイン会社 デザイナーぶっちゃけトーク:スキルアップやキャリアパスについてどう思う?~」というイベントに登壇させていただきました。テーマは、事業会社と制作会社でデザインに関わる人がそれぞれの視点で、今後デザイナーはどのようにキャリアアップやスキルアップを図るのか?という問題を掘り下げて考えるというものです。

デザイナーに求められるスキルが多様化・細分化される中、数年後にどんな人材になっていれば良いのか?今後何を身につけていくべきなのか?という疑問は、多くの方が抱いている問題です。今回私は事業会社で働いたことのない、生粋の制作会社視点の立場でのスピーカーということで、お声がけいただきました。このエントリーでは、私自身が発表した内容を補足と合わせてご紹介してみたいと思います。

一緒に登壇されたのは、株式会社バンクの河原香奈子さん、株式会社rootの古里祐哉さん、株式会社Fablicの”わりえもん”こと割石裕太さんという顔ぶれでした。

登壇者の皆さんのお話

キャリアは考えすぎない(バンク河原さん)

バンクの河原さんは制作会社から事業会社に転職した経歴で、制作会社勤務の時代に培った「スピードと引き出し」を武器に事業会社へと転職し、現在は新サービスの立ち上げに邁進中。サービスの成長と共にリアルなユーザの声や周りの反応を感じられるところ、チームの一員としてサービスを作り上げる醍醐味がある、というお話はとても興味深い内容でした。制作会社のデザイナーは、制作内容や社内のレイヤー構造の面でも、最終的な受け手の反応を感じ難い場合が多いので、事業会社のデザイナーが得られる働き甲斐がよく分かるお話でした。

デザイナーはセルフブランディングが重要(Fablic割石さん)

Fablicの割石さんのお話はセルフブランディングに対する考え方でした。変化のスピードが速いWeb業界において、都度自分のスタンスを合わせることよりも、確固とした自分自信のデザイナーとしてのコンセプトを持つことで、他のデザイナーとの差別化を図ることが大切、というお話でした。割石さんは今回初めてお会いしましたが、割石さん自身のキャラクターと作り出すデザインの世界観が一致していること、そこをブラさずに外に向けてアウトプットを続けていることは、デザイナーとして生き抜く上で非常に重要であると感じました。

デザイナーに求められるのは横断的スキル(root古里さん)

rootの古里さんは事業会社から制作会社に移られた、河原さんや割石さんとは逆パターンのキャリアパスで、サービス開発に携わるデザイナーには、上流工程から実装に渡るまでの「横断的スキル」が必要であるというお話でした。昨今のデザイナーは表面的なデザインスキルに加え、デザイン思考に基づいたビジネス自体への理解がより具体的なスキルとして求められるようになったこと、そして進化し続ける技術的な側面への理解もキャッチアップしていく必要があること、両側面のバランスをうまくとりながらスキルアップしていく必要があることが再認識できるお話でした。

私が考えるキャリアパスとスキルアップ

そして私からはこんなスライドで、今後デザイナーとしてキャリアアップを図る上でどんなことが重要になるのか?具体的にどうやってスキルアップしていくのか?という点について、自分自身の経験を交えてお話させていただきました。要約すると、結論は次の2点です。

キャリアパス「ビジネスへの理解を深めて市場価値を高めることが重要」

まずキャリアパスは、デザイナーとしての主力武器であるデザインの表現力を磨きつつ、ビジネス面への理解を深めて市場価値の高い人材になることが重要です。キャリアスタート時、デザイナーはまず決められた指示書に従ってインターフェースやビジュアルを作る作業を任されます。そこで様々な表現方法を身につけていくわけですが、30歳を過ぎたあたりから「綺麗なデザインは作れて当たり前」という状況を迎えます。重要なのはその当たり前な状況の中で、どのように自分自身の市場価値を高めていくのか?ということです。よりマーケティングやUXを含めたビジネス的な視点でデザインの対象について語れるゼネラリストになるのか、テクノロジーの進化と共に変わり続ける最先端の表現を扱うスペシャリストになるのか。自分自身の特性を踏まえて見据えておく必要があります。

スキルアップ「広い対象に向けてアウトプットを継続することが重要」

そしてスキルアップについては、広い対象に向けて継続的にアウトプットを行い、フィードバックを得続けることが大切です。自分のアクションが他人に影響を与え、そこからフィードバックを得る、というのが一般的な学びのサイクルです。自分から何も発信しなければそのフィードバックを得る機会が少なくなるため、ハードスキル・ソフトスキル共には伸びることはありません。正直なところ、会社の仕事だけで手一杯になっていて「休めるときはしっかりと休みたい」と考える人も居るでしょう。しかし、そうしたしんどい時こそどうすればアウトプットできるのか?時間をかけなくても継続できることは何か?を考えて新たな一歩を踏み出す人こそ、スキルアップのスピードは早くなります。そしていつの間にかアウトプットが習慣となり、苦労せずとも自然とスキルアップする循環を自分の中に持てるようになるのです。

制作会社が良いのか、事業会社が良いのか

今回のイベントは「制作会社 VS 事業会社」的な構図ととらえがちですが、結局のところデザイナーにとってどちらでキャリアを積むのが効率的か?は、個人によって変わる、と言わざるを得ません。しかし、会社や業務内容によって違いがあることは大前提としつつ、上記の図のような傾向があるのではないか?と、このイベントに向けて資料をまとめる中で考えていました。どちらからキャリアをスタートしても、最終的に主力武器となるデザイン力と、ビジネスへの理解力、両方の力を付けていくことがデザイナーに求められることであると私は考えています。

制作会社のデザイナーはデザイン表現の幅を広げやすい

制作会社からのキャリアスタートとなった場合に得られるメリットとしては、やはりデザイン表現の幅が広くなる、という点が挙げられます。数少ない特定のサービスに絞られることなく、様々な業種のデザインワークを短期間でこなしていく日々は、確実にデザイン表現の幅げます。まずもってビジュアル表現で幅を広げたい人にとっては、やはり制作会社からのキャリアスタートが望ましいのではないでしょうか。デメリットとしては、事業会社ほどデザインした対象が結果的にどうなったのか?を知る機会が少ないことが挙げられます。それは言い換えると、一つのビジネスとしてデザインがどのように機能したのか?が分かりにくい状況である、と言い換えることもできます。

事業会社のデザイナーはビジネス的な視点が身に付きやすい

逆に事業会社からキャリアをスタートした場合には、自分が作ったデザインに対してユーザがどう感じたのか?という結果を知りやすい、というメリットがあります。自分の背後にカスタマーサポートが居て、機能のローンチ当日にその結果を実際の声に触れることができる環境もあるでしょう。その点は、制作会社ではなかなか味わいにくい仕事の醍醐味であると言えます。デメリットは、制作会社ほど表現に幅を求められることが少ないため、表現力が広がりにくいことではないでしょうか。また勤務時間についても比較的無理を強いられる場合が少ないため、デザイナーとしての限界値を求められる機会も少なくなります。積極性がなければデザインスキルが伸びにくい、と言えるのではないでしょうか。

まとめ+おまけ

今回こうした登壇の機会をいただいたことで、自分自身に今後求められることや目指すべき方向、日々のスキルアップ方法について、改めて深く考えることができました。登壇終了後は多くの方からご挨拶いただいたのですが、時間の関係でお話できなかった方もいらっしゃいました。そこで、期間限定で「制作会社のデザイナーに聞いてみたいこと」と題して、気軽に質問を書き込んでいただけるスプレッドシートをご用意しました。制作会社で働くデザイナーの話をもっと聞いてみたいという方は、ぜひこちらのシートに質問を書き込んでみていただければ、可能な範囲で回答させていただこうと思います。

制作会社のデザイナーに聞いてみたいこと

最後に、こうした機会にお声をかけていただいたrootの西村和則さんに深く感謝しています。会場にいらした方も含め、お礼を申し上げます。


1記事ではてブ数4901を獲得した私が伝えたいアウトプットに対する考え方

先日公開した「誰も教えてくれない「分かりやすく美しい図の作り方」超具体的な20のテクニック」という記事が、予想を遥かに超えて様々な方から多くの反響をいただきました。現時点での結果としてわかりやすい数字をご紹介すると、はてなブックマーク(通称はてブ)でブックマークされた数が約4900、Facebookでのシェア数が約11000、Newspicsでのシェア数が約6000となりました。

キャリア論、精神論、自分語りは、実力を兼ね備えた人の話しか影響力はありません。冷静に考えて、特に名があるわけでもない一介のWeb製作者の私が自分の経験談を語っても参考にならないため、極力このブログでも避けてきました。しかしこうした結果が生まれた今なら、自分自身のキャリアと行動を振り返って、自分なりのアウトプットに対する考え方をお話するのも良いかと考えました。

このエントリーで私が伝えたい結論は「他人に影響を与える質の高い自発的なアウトプットは自分自身のキャリアや生活に良い影響を与えるので、若いうちから積極的にアウトプットする習慣を身につけると良い」という話です。最初に言っておきますが、長いです。何卒ご了承の上で読み進めてください。以下、サマリーです。

  • 1. アウトプットの定義
  • 2. アウトプットに適した内容3種類
  • 3. 他人に影響を与えるアウトプットの2つの特長
  • 4. アウトプットの効果
  • 5. 自発的アウトプットと強制的アウトプットの違い
  • 6. アウトプットを阻む2種類の問題
  • 7. 私自身のアウトプット(4つの経験談)

1. アウトプットの定義

そもそもアウトプットとは何でしょうか。私の中では「自分以外の誰かが認識できる情報」と定義しています。私のようにブログに書く文章という形もあれば、絵、写真、映像、音楽、言葉など、人によって様々な形があります。

共通しているのは、頭の中の「思考」が目に見える形(もしくは耳に聞こえる形)となり、初めて「情報」となって、第三者に影響を与えるものだということです。ただ頭の中で考えているだけの「思考」は、他人に影響を与えることはありません。

アウトプットされた情報は物理的に存在するため、発信すると波が寄せ返すように、自分自身へのフィードバックとして影響が跳ね返ってきます。感謝、同意、反発といった感情もあれば、給料や報酬といったものもある意味フィードバックと言えます。

人は外部からのフィードバックを通して喜び、悲しみ、成長する生き物です。アウトプットによって多くのフィードバックを得る人ほど、感情が豊かになり、思考に深みが増します。人がアウトプットすることにはこうしたサイクルがあるということをまず覚えておきましょう。

2. アウトプットに適した内容3種類

私の中でのアウトプットの内容は、3種類に分類して考えています。「好きなこと」「できること」「学びたいこと」です。

(1)好きなこと

もっとも多くの人が始めやすいアウトプットは「好きなこと」です。私のようにブログに限らずとも、バンドを組んでライブをする、絵を描いて個展を開く、写真を撮ってギャラリーサイトを作る、小説を書いて賞レースに応募するなど、人によって様々な形があります。無条件に自分が好きなこと、表現したい欲求を解放すると、少なからず他人に影響を及ぼします。

(2)できること

自分がこれまで生きてきた中で培ったノウハウを公開することもアウトプットに向いています。身近なところで言えば、料理のレシピを他人に共有したり、育児日記を公開したりすることもありますし、講演を開いて多くの聴衆に語りかけるといった方法もあります。私が更新してきたデザインに関するブログもベースはここにあります。自分にとっては当たり前のことでも、他人にとっては非常に有益な情報になり得るのです。

(3)学びたいこと

知識が少ない分野の学びを深めるために、情報を蓄積することもアウトプットに適しています。脳科学的な話で言えば、頭の中にもやもやとある思考を言葉に置き換えて情報化すると、記憶は一時的な記憶装置である海馬から、記憶の金庫とも呼ばれる側頭葉に移動し、忘れにくい知識となって脳に定着するため、学びが加速します。(詳しくはこちら)またこうした学びのアウトプットには、類は友を呼ぶという言葉の通り、自然と共通の思考を持った人が集まり、知りたい情報が集まってくる特性があります。

3. 他人に影響を与えやすいアウトプット3種類

前述の通り、人によってアウトプットの形は様々ですが、他人に影響を与えやすい内容は共通しており「面白い」「共感できる」「役に立つ」に分類することができます。何かを発信するときは、この3つのうちのどれに該当するか?を考えましょう。

(1)面白い

見て、読んで、聞いて、「面白い」と感じさせるものは、他人に強い影響を及ぼします。人気のお笑い芸人の漫才、人気作家の最新の長編小説、読んで笑えるWeb上の記事などはこの面白さに該当します。また人気音楽アーティストの音楽など、五感で感情を揺さぶるアウトプットもここに分類されます。

(2)共感できる

情報の受け手が発信者の考えに強く同意できる内容は、この「共感できる」アウトプットに分類されます。音楽の歌詞に共感できる、エッセイの経験に共感できる、アート作者の感情に共感できるなど、大きな共感を生み出すものは強く人の心を惹きつけ、感情を揺さぶり、多くのフィードバックを生み出します。

(3)役に立つ

情報の受け手が発信された情報を活用することで、物事を効率化できたり、悩みを解決したりできる情報は「役に立つ」アウトプットに分類されます。私がこのブログでデザインに関するノウハウを発信していた記事も、この「役に立つ」に分類されます。前述の2つよりも、この「役に立つ」は意図的に実践しやすいアウトプットです。

4. 多くのフィードバックを得るために意識すべき3点

アウトプットの定義でお話したサイクル図を思い出してほしいのですが、より多くのフィードバックを得るために、意識しておくことが3つあります。これらを知っておくと、より多くのフィードバックを生むことができます。

(1)メッセージが絞られていること

一つのアウトプットの中に伝えたいことがいくつも含まれていたり、結局何が言いたいのかわからない場合、メッセージの受け手はそこから何を感じれば良いのか迷ってしまいます。例えば飲食店で考えてみると、「ラーメン+うどんセット」をお店の売りにしたい!と考えて発信しても、ラーメン好き・うどん好きのそれぞれの人からは「どちらも極めてない中途半端な店だなぁ」と感じられるでしょう。自分自身が伝えたいことを一言で言い切れるくらいにメッセージが絞られていればいるほど、良かれ悪かれ、他人に影響を与えやすくなります。

(2)受け手のメリットを優先していること

自分へのメリットを考慮するのは悪いことではありませんが、そちらを優先すると他人に影響を及ぼしにくくなります。人と会話していて「あ、なんかこの人の話は自慢臭いなぁ」「人より自分が優れてまっせアピールしたいんじゃないか」と感じたことはありませんか?自分自身のメリットがアウトプットに過剰に隠されていると、受け手は想像以上に敏感に察知します。基本的に受け手はマイナス目線で懐疑的に物事を見るため、自分自身へのメリットを優先したアウトプットは他人に影響を与えにくいのです。

(3)対象者の母数が多いこと

メッセージを絞り、受け手のメリットを優先してアウトプットしたとしても、受け取る人自体の人数が少ないと、影響の度合いは小さくなります。ニッチな分野で影響を及ぼすことも無意味ではありませんし、自分自身がどうしても発信したい情報に対して「対象者が少ないからやめておこう」と考えるのは、アウトプットを継続するためのモチベーションを著しく下げてしまうため、前者の2つほど過剰に意識することはありませんが、現実問題として踏まえておくことは重要です。

5. アウトプットが生み出す効果

好きなこと、できること、学びたいことからアウトプットを開始し、さらに他人に影響を与えやすい内容を考慮し始めると、自分の身の周りにも、自分自身にも、数多くの良い変化が生まれます。

周囲の変化

自分の考えに賛同・共感してくれる人が身の回りに現れます。もちろん場合によっては炎上するような大きな否定を生み出す可能性もありますが、それはある程度影響力を持った人のみに起こりやすいことです。逆に、前の章で述べたメッセージの絞り込みと、受け手のメリットの優先を守れば、自分を高く評価してくれる人が現れる可能性の方が高いのです。

自分の変化

本当に他人に伝わるものが何なのか?どうすればその内容が伝わるのか?本来達成すべき目標は何なのか?を突き詰める、深い思考力や洞察力が身につきます。ここで身につけた力は、日々取り組む仕事の中にも、プライベートにも十分に応用することができ、より物事を円滑に進めたり、より他人をスムーズに説得したりすることができるようになります。

6. 強制的アウトプットと自発的アウトプットの違い

さてここで一つご自身のアウトプット経験を思い出してください。何かの情報を発信することがアウトプットであるなら、学校で指示された課題も、会社で指示された仕事も全てアウトプットと呼べるのではないか?だとすれば毎日自分はアウトプットしているのではないか?と思いませんか?しかしながら、自発的に行なったアウトプットと他人に強制されたアウトプットには、大きな違いがあるのです。

強制的アウトプット

強制的アウトプットとは、自分以外の誰かに指示を受けて行うアウトプットです。指示された資料を集めること、指示された議事録を作成して共有すること、指示されたデザインを作ることなど、作業を完了させること自体が目的であると捉えがちなのです。本来はそのアウトプットの先にある気づきや学びが重要なのですが、そこに視点が及ばないケースが多いのです。

自発的アウトプット

自発的アウトプットとは、自分自身の意志によって行うアウトプットです。自分の撮った写真を見てもらいたい、作った音楽を聴いてほしい、書いた文章を読んでほしいなど、行動の先には他人からのフィードバックへの渇望があります。自発的にアウトプットすると、ほんの小さなフィードバックさえも敏感にキャッチできる、大きなアンテナが働くのです。

7. アウトプットを阻む2種類の問題

人によってはどうしても「自分にはできない」と語る人もいます。その原因は物理的な問題と、精神的な問題に分けることができるのですが、どのようにしてその問題に対処すれば良いのでしょうか。ここでは私なりの考え方・対処法を述べておきたいと思います。

(1)物理的問題 〜時間がない〜

もっとも多くの人が語る理由が「時間がない」という物理的な問題です。実際に年をとればとるほど、子育てや人付き合いなどで自分の時間を持つことは難しくなります。しかし実は、この「時間がない」という言葉は真意の上辺であって、本当のところは「そこまで何かしらアウトプットしなければまずい!」という危機的な状況に無いのです。現状の生活を変えたくない、変える必要がない、変えるための面倒さ・痛みを受けるくらいなら今のままで良い、という選択をしているのです。

本人の意思ありきでなければアウトプットは継続できないため、他人が「そんなことじゃダメだ!」と言って行動を変えようとすることには意味がなく、逆にストレスを与えてアウトプットを敬遠させることになります。

しかし長い人生の中では、会社の中でも私生活の中でも、周囲から変化を求められる時が必ずやってきます。その時に自分の変化するストレスから逃げ、目先の安息を優先したり、変化しない自分を「時間がない」といった言葉で肯定していては、自分の求める生活の豊かさ(地位や報酬の向上、円滑な人間関係など)を得ることはできません。

まず「時間が無い」と言ってしまう人は、自分自身をそうした上辺の言葉で肯定していることを冷静に受け止め、今自分が新たなアウトプットを開始すべきなのかどうか、しなければどんなデメリットがこの先起こり得るのかを、落ち着いて考えてみることをお勧めします。

(2)精神的問題 〜恥ずかしい・否定が怖い〜

精神的な問題でまず挙げられるのは、恥ずかしいという感情です。「薄い知識だなぁ」「考えが浅いなぁ」と見られるのは、誰しも恥ずかしいと感じるでしょう。実はこの問題は、匿名という方法で簡単に解決できます。ブログ業界で言えばちきりんさんなど、匿名でも大きな影響力を持つアウトプットを残す人は数多く存在します。まず匿名で始めてアウトプットが他人に影響を及ぼすようになってから、必要に応じて匿名をやめるという手もあります。ただ実名の方が現実の周囲と関係が近いため、強いフィードバックを得やすくなります。

そしてもう一つが、否定が怖いという感情です。残念ながらこの感情は、傷つくことから身を守るという、人が生まれ持って兼ね備えた自己防衛本能に紐付いた感情なので、消えることはありません。消えることはないものとして自分の中に受け入れ、折り合いをつけて心の中に同居させる必要があるのです。時に大きくなることも、小さくなることもあるこの否定への怖さを「消えるものではない」と受け入れた時、PPAPが世界で爆発的なヒットを飛ばすような、全く想像することのできない可能性につながることだってあるのです。

8. 私自身のアウトプット(4つの経験談)

以上が、私自身が経験の中で考えてきた、私なりのアウトプット論です。ここからは、そうしたアウトプット論にたどり着くまでに、私がどんな経験を経てきたのか、アウトプットからどんな恩恵を受けてきたのかをお話してみたいと思います。(Web業界に偏った話になります)

経験その1)初めての個人Webサイト

GOONEE.NETというドメインで、自己紹介、日々の日記、仕事の中で思うこと、写真、好きなサイトのリンク集などを掲載。FLASHでおもちゃのようなUI表現を追求。現在は運営終了。

もともと私がデザイナーとして働き始めた14年ほど前は、インターネットが劇的に世の中を変えていく流れがありました。私の感覚では、今の若いクリエイターよりも、当時のクリエイターの方がアウトプット欲が強く、こぞって自分のサイトを作ってセルフブランディングしていた記憶があります。

例にもれず、私自身も「人から羨望の眼差しで見られるサイトを持っていたい」と考るようになり、自らのドメインでサイトやブログを作って、ロモで撮った写真を掲載したり、自分の日々あった出来事などを発信したりするようになりました。自分の好きなことを自由に発表し、周囲からの反響を得る日々はとても楽しく、苦もなくアウトプットを継続できました。

最初に作った個人のWebサイトを経由して、当時海外に住んでいた見知らぬカメラマンからMixi経由で連絡をもらって個展のロゴやDMを作らせてもらったり、浅草に住む老舗和菓子店の若女将から個人的なサイト制作の依頼をいただくこともありました。どれも自らのアウトプット無しには成し得なかった経験でした。

経験その2)会社の昼休みを利用したランチブログサイト

そろそろひるめし@赤坂というサイト。赤坂でのランチを写真付きで紹介。のちにワンコインランチの店だけを集めた特集、自分なりのベストランチ特集といった企画ページを作成。現在は更新停止中。

7年ほど前には当時所属していた赤坂の会社で働く昼の時間を有効活用して、ランチブログサイトを運営してみました。会社の仕事だけではどうも張り合いがなく、どうせ誰が注目しているわけでもなし、気楽に好きなことをやってみようと、それまでやったことのないことを自由に試してみました。誤解を恐れず言うなら、暇つぶしです。

そのサイトでは、ランチの写真を撮るためにカメラを買ってみたり、自分の好きなロゴを作って面白がってみたり、さわったことのないWordpressをいじってカスタムしてみたり、ダウンロードできるワンコインランチマップを作ってみたりと、様々なことを試してみました。そうしているうちに、周囲から徐々に反応をもらえるようになりました。

最終的に転職を迎え、赤坂を去ると同時にそのサイトの運営はストップしましたが、自主的なWebサイトの運営経験は現在私が所属するWeb制作会社ベイジに転職する際の強力な武器になりましたし、冗談半分で作ったロゴは日本タイポグラフィ協会主催のタイポグラフィ年鑑への入選も果たしました。またサイト自体を有名なデザインポータルサイトロゴポータルサイトにも取り上げてもらえましたし、社内で話したことのない仕事のデキる先輩とも交流する機会を得ることができました。この頃には、アウトプットとは何か?を十分に理解していたつもりでした。

経験その3)下北沢を舞台にしたカフェブログサイト

東京昼カフェというサイト。東京都内のカフェを写真付きで紹介。下北沢が多めだが、東京都内を色々と掲載する展望を持っていた。現在は更新停止中。

以前のランチブログというアウトプットが自分に良い流れを生み出したことを踏まえ、現在所属するWeb制作会社ベイジに転職後は、職場が下北沢ということも踏まえ、カフェブログという形で新たなサイトをスタートさせました。関西出身で東京の地理に疎い私にとって、お洒落な街に繰り出して洒落たカフェを記録していくことはとても楽しい作業でした。

またこの頃から世間ではFacebookが台頭し始めました。一つひとつの投稿に対して「いいね!」という形でフィードバックが得られることは、何よりの楽しみでした。「いいね!」の数が増えれば増えるほど、自分自身の存在が認められていると感じ、毎回更新する度に楽しさは増していきました。結果的には都内のカフェを80件ほど取り上げました。

しかし、運営を開始してから2年ほど経ったある時、会社の面談の中で代表から「カフェブログやめたら?」という言葉を投げかけられました。カフェブログは写真や言葉がある程度のボリュームで掲載されているものの、そこに私自身の「思考や考察」が含まれていない、というのが指摘の理由でした。

指摘の通り、アウトプットを継続はしているものの、特に周囲にも自分自身にも何か際立って大きな影響を生み出してはいませんでした。ただ「アウトプットを継続している」ということだけが、自分自身を肯定する唯一の言い訳でした。

ここで思い出していただきたいのが前段で述べた「他人に影響を与えやすいアウトプット」の話です。私が指摘を受けた「思考や考察」とは、どのようにすれば第三者に強く影響を与えることができるのか?を深く考えること、だったのです。

私のカフェブログに全くそれが無かったとは言いませんが、それが深い考察であったか?と問われると、Yesとは言えませんでした。この時ばかりは流石に心が折れ、しばらく何かをアウトプットすることはありませんでした。

経験その4)デザイナーとしての考察ブログ

TomoyukiArasuna.comというブログ。デザインに関するノウハウ、書評、イベントレポートを中心に記事を掲載。現在も更新中。

アウトプットをやめた私の成長曲線は停滞しました。会社で与えられるプロジェクトを一生懸命こなしましたが、30歳を超えると徐々に、結果を出して当たり前、綺麗なデザインなんて出来て当たり前、専門知識があって当たり前、という状況になるのです。そうしたベースの能力に加えてさらに上のキャリアを目指すためには、他人への強い影響力が求められるのです。

この状況を打破するためには、周囲に影響を与えることができる、新たなアウトプットを始めるしか道はありませんでした。そこで始めたのがこのブログです。もともと私の会社の代表がブログで多くの人々に強い影響を与えていたため、不器用ながらも見よう見真似でまずは始めてみました。

もともと文章を書くことは苦手ではなく、やろうと決めたら文章自体をまとめることに楽しさは覚えましたが、開始当初の周囲の反応は薄いものでした。一生懸命考えて何日もかけて作った文章でも、びっくりするほど反応がありませんでした。

反応がない時には自分自身に「これは自らの言語化能力を鍛えるための活動だから、反応がなくても焦ることはない」と言い聞かせました。しかしその自分への言い訳こそが、私の能力にフタをしてしまっている原因だということに、投稿の回を重ねる毎に気がついていきました。

ある時、Googleからマテリアルデザインが発表された際、自分自身の勉強の意味も兼ねて概要をまとめたエントリーを投稿したところ、急にはてなブックマークが50を超える反応がありました。驚いてアクセスを見てみたところ、PV数は2000を超えていました。これは…と思い、カフェブログのアクセスを改めて見返してみると、MAX値でもPV数はたったの200ほどしかありませんでした。

ランチブログやカフェブログは一生懸命作っていました。しかし、より大きなフィードバックを受けるための「他人に影響を与えるにはどうすれば良いのか?」という視点が決定的に欠けていたことを、この時身をもって体感しました。

いくら美しい写真を掲載し、自分の好きな言葉を並べたとしても、見る人が少なければ自分に多くの良いフィードバックが返ってくることはありません。特に見た目へのこだわりの強いデザイナーという職業柄、この落とし穴には気がつきにくいものなのです。

それ以降のエントリーは、徹底的に読み手への影響を突き詰めて考え、精度を上げることに邁進しました。

最初にバズを生んだのは、Webデザイナーがワイヤーフレーム通りにデザインを作ってしまう問題を取り上げた記事です。この記事は、自分自身が過去に悩んだ問題を取り上げていて、当時の自分にアドバイスするならどう言えば伝わるのか?確実に失敗しなくなるためにはどう言えば良いか?を徹底的に考え抜きました。結果、はてブ数は400に到達しました。

その後、目立ってバズを生んだのはスマートフォンのUIに関する考察や、ランディングページのデザインノウハウをまとめたものでした。情報を記録したスプレッドシートも、数多く集めたサンプルも、記事を見る人のためになるという判断の元で惜しみなく公開しました。どちらも私自身が関わるWeb制作業務の話で、自分と同じWeb制作者には有益になるであろうと考えて発信した情報でした。

その後、今年に入って公開したのが先日の「誰も教えてくれない「分かりやすく美しい図の作り方」超具体的な20のテクニック」という記事でした。元々、同じ会社で働く若いデザイナーが図の作成に苦戦する姿を何度も見ていたため、自分自身のノウハウを共有するために作成したものでしたが、記事の読み手をデザイナーだけに限定すると、読み手の母数が少なくなってしまうことを、経験則で学んでいました。

また、以前に代表のブログのエントリーで提案書づくりのデザインに関する記事が人気を集めていたことを思い出し、デザイナーだけでなく、提案書づくりに関わる人をターゲットに含めれば、より多くの人々に響くのではないかと考えました。そしてどうすればそこで苦戦する人たちの問題が解決するか?を考え、解りやすい文章やサンプルを作成しました。

当初の想定では、はてブ300〜600くらい行けばいい方かな?と考えていましたが、結果は自分の想像をはるかに超える4901という数字で、アクセスは初日でおよそ10万PVありました。この結果は、私の的確な分析が全ての要因とは思っておらず、外部要因もあると考えています。しかし、徹底的に読み手の目線に立ってコンテンツを作るということが、他人への影響力と密接に関係しているということを改めて教えてくれました。

記事はまだ先週公開したばかりですが、自分の身の回りで様々な変化が起こり始めました。Facebookのフォロワーは約250人、Twitterのフォロワーは約300人ほど増え、これまで知り合うことの無かった方々からFacebook経由で多くの感謝のメッセージをいただきました。また登壇へのお誘いもいただくようになりました。

振り返ってみると、私のキャリアの中でジャンプするタイミングは、すべて自発的なアウトプットが関連していました。歳を重ねるごとに活動のスタイルは変わりますが、可能な限り今後も他人に有益な情報とは何か?を考えて、アウトプットを継続していきたいと考えています。

まとめ

冒頭で述べた通りの結論に戻ります。私がここにまとめた一連のアウトプットに対する考え方と、自らの経験から伝えたいメッセージは「他人に影響を与える質の高い自発的なアウトプットは自分自身のキャリアや生活に良い影響を与えるので、若いうちから積極的にアウトプットする習慣を身につけると良い」という話です。

「若いうちから」という言葉が入っているのには理由があります。それは、年齢を重ねれば重ねるほど身動きが取りづらくなることを身を持って経験していることや、大きな結果を残している人ほど、早くからアウトプットする習慣を身につけていることに、年齢を重ねてから気がついたからです。

また、アウトプットするかどうかは本人の自由です。誰に強制されるものでもありません。しかし、多くのアウトプットを重ねて思考を深めている人の方が、多くの企業、引いては世の中全体で必要とされる人材であり、自分の求める生活の豊かさ(地位や報酬の向上、円滑な人間関係など)を得られるという事実から目を背けてはいけません。その事実の前で、自分がどういった行動をとるか、できるだけ早く考えておくべきでしょう。

最後に、インターネットが普及している現在は昔と比べて、自発的なアウトプットで他人に影響を与えやすい環境が整っています。こうした時代に生きている中で自分の人生をより豊かにするために、その恩恵を賢く利用する道を選ぶのか、頑なに利用しない道を選ぶのかも、自分なりの考えを持っておくべきでしょう。私はWeb制作に関わる人間こそ、その恩恵を最もうまく利用して世の中に自分のアウトプットを数多く投げかけ、多くのフィードバックを受けて深い思考力や鋭い洞察力を身につけながら、力強く活躍していくべきだと考えています。

私のアウトプットに対する考え方と経験からの学びが、少しでも多くの方のお役に立てばと思います。