2020年8月31日をもって、約9年半在籍してきた株式会社ベイジを退職します。長い間、腰を据えて働き続けられたこと、とてもありがたく感じています。
退職エントリーの意義についてはいろんな議論があります。私の場合は、自分自身の経験を整理し、ひとつの区切りとして後で振り返るために書いてみたいと思いました。
9年半勤めた中で学んだことの中でも特に大切だと思ったことを、9年半にちなんで9つにまとめてみます。
1.戦略を持つ
戦略とは、自分の強み・弱みをすべて理解した上で、目的を達成するためのシナリオを考えることです。9年半の間、会社も自分も成長を続ける中で「戦略」と向き合い続けたように思います。
ベイジで戦略の力を感じたのは、提案するwebサイトはもちろんですが、自社の顧客を変えたことが特に記憶に残っています。私が入社した当初は代理店経由の仕事も多く、思うように自分たちのペースでプロジェクトが進行できないことがよくありました。
そこから数年の間に状況は一変しました。年間の問い合わせ件数は400件以上、ほぼすべて直取引案件、加えて自分たちと相性の良い顧客を選べるようになりました。計画的に自社のブランドを築き、情報発信を続け、組織作りを行ったからこそ成し遂げられたものだと思います。
私は過去に仕事の依頼が少ない会社に勤めたことがありました。デザイナー自ら仕事を取って来いと言われ、広告代理店のオフィスに出向き、知り合いのデスクに名刺を置いて存在感を示す、御用聞きに行ったこともあります。その経験をすべて否定はしませんが、そんな経験があるからこそ、ベイジの顧客が変わりゆく姿が特に目に焼き付いたのだと思います。
戦略を持つことは、仕事・プライベートに関わらず、生きていく中で常に向き合っていきたいと考えています。
2.情報を発信する
ベイジはいろんな方から「情報発信が盛んな会社」として認知されています。しかし入社当初の私はそこまで情報発信に積極的ではなく、Twitterアカウントも鍵をかけていたくらい消極的でした。しかし、企業・個人どちらにおいても、情報発信の恩恵が大きいことを学びました。
まず企業の視点。私が入社した当時、社員は3名でした。そこから現在の20名規模に至るまで情報発信を継続する中で、相性の良い顧客や採用希望者との接点が多く作られました。自分たちの考えを発信するからこそ、そこに共感してくれる人々が集まります。
そして個人の視点。自分でコンテンツを発信し、社外の人の目に止まることで接点が生まれ、社内とは違った角度の考え方に触れることができました。加えて興味を持ってくださる方のお声がけから、自分の活動の幅を広めることもできました。
情報発信が大切という話はSNS上でもよく目にします。しかし組織の状況や自分のキャリアに大きな変化をもたらす効果を実感できる人は少ないと思います。情報発信の影響力を肌感覚で沢山実感できたことは、貴重な経験でした。
3.法則を見つける
目に見えているもの、目の前で起こっていることは、そこだけ見るとひとつの物事・事象でしかありません。しかし歴史を辿ったり、同じ種類の物事・事象と比較することで、共通点や法則を見つけだすことができます。
例えばwebサイトなら、デバイスの進化に伴うUI変化の法則、コンバージョン率を高める情報設計の法則、読まれやすい記事タイトルの法則など、数え始めればキリが無いほど沢山あります。
これらをいち早く見つけ、独自のメソッドとしてまとめると、物事の成功確率や、組織全体の生産性を高められるようになります。また情報発信に繋げれば、同じ領域に関心を持つ人々の注目を集められるようになります。ベイジの情報発信の大元には、この法則の発見があります。
こうした法則は、普段ぼんやりと生活していて見つかるものではありません。メタ視点で物事を観察し、調べることで、初めて見えてくるものです。働き続ける中で、法則を見つける目を養うことの大切さを沢山学びました。
これを仕事だけでなく、趣味や自分の好きなことの領域まで含めて実践できると、生きることが楽しくなると感じています。
4.知識を更新する
キャリアを重ねて仕事の成功確率が上がると、身に付けた能力だけである程度仕事が回るようになります。しかし組織の中でのポジションが変わることで求められる業務内容が変わることもありますし、テクノロジーの進化に伴って専門領域で求められる技術が変わることもあります。
そんな時、過去に身に付けた能力だけでやりくりしようとしても、やがては通用しなくなり、新しい力を持った人材に淘汰されます。そうならないためには知識の更新が必要になります。
専門領域の知識を学ぶ基本は読書です。先人の経験や知恵が詰まった本は、場所も時間も選ばず、効率的に知識に触れることができます。9年半を振り返ると常に鞄に本が入っていたように思います。
また、セミナーや勉強会に参加して、同じ業界の人と交流することも、知識を更新する方法として最適です。特に同業者と交流して得られた知識は本には書かれていないものなので、表向きには語られない失敗談や悩みはとても参考になります。
そして今度は、得た知識で自分の目の前の課題を解決します。その体験こそが、他では得られないさらに特別な知識になります。この知識更新のサイクルを回せるようになると、環境の変化に強い人材になれるのです。
5.好きを突き詰める
受託のweb制作は、お客様から「専門家の意見を聞きたい」と言われることがよくあります。そこで、自分が経営者ならこう判断する、なぜなら…と自信を持って発言できなければ、お客様からの信頼を得られません。
自信を持って意見するには、専門的な知識と当事者意識が必要です。この2つは誰もが当たり前に大事と言いながらも、なかなか簡単に身に付くものではありません。どうすれば身に付くのでしょうか。
9年半勤めた中で私なりに導き出した答えは、自分の「好き」をとことん突き詰める、ということです。デザイナーやエンジニアになりたい!と思った時のワクワクした感情を、自分の中の大きな根にするのです。
とは言え、好きな気持ちが揺らぐこともあるでしょう。圧倒的に自分よりも好きな度合いが強い人と接した時「自分はそこまで好きじゃないのかも…」と感じてしまうこともあります。私も何度もそんな経験がありました。
しかし、そんな時こそ自分の大元にあった「好き」を大切にして、再び一から育てていく。毎日水を与えるように知識を蓄え、なぜこれは〇〇なんだろう?と関心を持ち続けた人が、専門的な知識と当事者意識を持ち合わせたプロフェッショナルになれるのだと思います。
好きだから目標が持てる。目標があるから関心を持てる。関心があるから知識が身に付く。知識が身に付くから自分の考えが正しいかどうか判断できる。このサイクルを作ることが大切だと思います。
6.正攻法を選ぶ
ベイジを象徴する言葉の一つに「正攻法」という言葉があると思っています。正攻法とは、奇策ではない正々堂々とした攻め方のことです。
制作物で例えるなら、気をてらったデザインでなくメッセージが正確に伝わるデザイン、SEOであればブラックハットでなくホワイトハット、雰囲気が良さげで耳障りの良いコピーでなく正確で具体的なコピーなど。行うことのすべてが正攻法です。
裏の手や奇襲は、一時的に人の気をひくことはできたとしても、長期的に見て良い結果を生まないことがほとんどです。そうした手を徹底的に排除して、正攻法を積み上げた後には、何事にも揺るがない功績や結果が残ります。
私は元来、大真面目で堅物というよりも、気の抜けたところもあれば、少し斜めからの意見で自分の存在を示すようなところがありました。しかし結局回りまわってそうした行動が良い結果を生まないことを、沢山体験してきました。
何事においても正攻法を積み上げることが、大きな結果を生むために大切なことを実感しました。
7.当たり前をやる
人も、組織も、webサイトも、当たり前にやるべきこと、やった方が良い結果を生み出しやすくなることがあります。
例えばwebサイト。結果を出せていないwebサイトの多くは、当たり前に必要なことができていなことがほとんどです。何か特別に新たなコンテンツを作るよりも、サイト内でコンバージョンに影響が強い箇所を特定して、そのポイントを改善した方が良い結果に繋がりやすいはずです。
顧客対応なら、来客があれば声を出して挨拶をする、メールは速やかに返信するといった行動、スタッフ同士のコミュニケーションなら、仕事を依頼する際はプロジェクトの背景から丁寧に伝えるなど、当たり前にやった方が信頼されやすいはずです。
これら一つひとつの物事に、難しいことはほとんどありません。しかし、当たり前に必要なことを当たり前にできている人や組織は多くないのです。だからこそ、当たり前を積み重ねるとそれだけで優位性が高まるのです。
大きな結果を生むために、何か特別で誰もやっていないことに目を向ける前に、本来やって当たり前なことに目を向ける方が大切であると、働き続ける中で学びました。
8.粘り強さを持つ
行動指針の一つに「失敗しても、再挑戦しろ。失敗のリスクから逃げていると、失敗は失敗のままで終わる。」という一節があります。
失敗したこと一つひとつは点です。そこからすぐに何かを生み出されるものではありません。しかし、失敗を繰り返す中での学びが結び付くと、長い線になります。その線が繋がった先に、驚くような成功や成長の体験がありました。
私の場合、特に印象深いのは2017年に大きな反響を読んだブログのバズ経験です。それまで何度となくチャレンジしたブログで泣かず飛ばずのエントリーを量産したこともありましたが、挑戦し続けた先に思っても見ない景色が待っていました。
最近だと、社内の活動となっているTwitter道場に参加するメンバーの中にも、自分のツイートに対して無反応だった時期を乗り越えたことで交流が楽しくなってきたといったエピソードを語っています。
振り返ってみると、成功よりも失敗したことの方が遥かに多くありました。しかし、私の中にはこの行動指針が腹落ちしていたこともあって、9年半という長い間、働き続けられたのだと思います。
9.礼儀・礼節を持つ
仕事をする中で最もストレスを生むのは人間関係です。憎しみ、恨み、疑念を抱いたまま仕事で成果を出すのは難しいものです。人と人が接する限り、必ず摩擦は生まれるものですが、できる事ならこうしたストレスは減らしたいものです。そこで大切になるのが礼儀・礼節です。
言葉の定義を調べてみると、礼儀は「社会生活の秩序を保つために人が守るべき行動様式」、礼節は「貴人に対して礼を行う作法」とあります。簡単に言うと、相手の立場に立って考え行動することです。
当たり前のことと言えばそれまでですが、ベイジの仕事はすべてこの礼儀・礼節が大元で大切にされているように思います。
具体的な行動を挙げると、対顧客なら、オフィスに来ていただいたら皆できちんと挨拶をする、オフィスは常に美しく掃除しておく、返答は待たせない、仕事をお断りする場合も丁寧に対応するといったことです。
対スタッフ同士のやりとりなら、誰かが何かを発表したら必ずその感想を伝える、自分が伝えやすい説明でなく相手にとって分かりやすい説明を行う、不快に思われるコミュニケーションがあったら指摘・教育する、なども含まれます。
また、業務の一部を依頼するパートナー・協力会社についても、外注や業者といった言葉で呼ばないことなども徹底されています。
礼儀・礼節は主に人の行動に対する言葉ですが、自社で作るwebサイトのコンテンツも、大元にはこの考え方が大切にされているように思います。
最後に
私はここで挙げた内容をすべて満足に実践できたわけはありませんでしたが、今後生きていく中でも、これらの学びは常に自分への問いかけとして心の中にあり続けると思っています。
9年半前は丁度東北の震災があり、世の中が混乱していました。30代となる大切なキャリアを決める重要な局面でしたが、私の目にはベイジ以外の選択肢は映りませんでした。それだけこの会社の持つ考え、哲学に惚れ込み、自分でもそれを体現できる人になりたいと思い、下北沢のとあるマンションの地下にあった小さな会社の扉を叩きました。
そこから30代の時間すべてをつぎ込み、本当に沢山の経験を積ませてもらいました。このエントリーで学びを改めて振り返ってみると、当時その選択をした自分は間違っていなかったと感じています。
現在、世の中はコロナの影響で混乱していますが、送別会も社内メンバーがオンラインで企画してくれました。リアルな飲み会の場では経験できなかったであろう、一生心に残る素敵な送別会を作ってくれたのがとても嬉しかったです(一部その様子を張っておきますね)。
在籍中、お世話になった方々にはこの場を借りて深くお礼申し上げます。本当にありがとうございました。9月からはまた新たな領域でチャレンジしていく予定です。SNSを通じてご報告していこうと思っていますので、もし気にしていただける方いらしたらぜひフォローしてください。
それでは今後とも私荒砂と、株式会社ベイジをよろしくお願いします。