2020年、転職にあたってポートフォリオを作った際の制作ノウハウ記事が、同じ境遇にある多くの方に見ていただけました。その流れでとある企業から「イベントでこの内容話してみませんか?」とお誘いをいただきました。せっかくなのでそのイベントでは記事にまとめた内容とは別のコンテンツを準備してお話させていただきました。
つくづく私は、ポートフォリオは自分目線の作品集ではなく、受け手目線のプレゼンツールであるべきだと考えています。イベントではそんな考えを「10のヒント」と題してお伝えしました。そして約半年経った今、当時のイベント動画が7日間限定で公開されることになったので、私もブログでその内容を公開したいと思います。
10のヒントは、ポートフォリオを作り始める前にどんな人たちにプレゼンするのかを考えた「準備編」と、作る際に採用担当者に伝わりやすくする技術を伝えた「制作編」の2部構成です。このエントリーですべてご紹介していますが、イベント動画の方がプレゼン形式でより理解しやすいと思います。お時間あればぜひ動画もご確認ください。
準備編
- 1.企業の選定状況に合わせたポートフォリオを考える
- 2.行きたい企業の特徴をリサーチする
- 3.採用担当者が注目するポイントをつかむ
- 4.募集人材に求められるレベルを正確に把握する
- 5.未経験者枠に求められるものをつかむ
制作編
- 6.読み手が理解しやすい順序・言葉・量を考える
- 7.実績が少ない場合の対処を考える
- 8.制作実績以外に掲載できることを考える
- 9.ポートフォリオを第三者にレビューしてもらう
- 10.選考で損をするNG手法
はじめに
最初に結論です。ポートフォリオ作りは「作品集を作るぞ」という自分視点ではなく、採用担当者の視点で考えることが大切です。読み手が知りたいことは何か?どんな体裁、どんな言葉、どんな構成なら興味を持ってもらえるかを考えると、自然と伝わりやすくなります。これらは「10のヒント」すべてに共通しています。
準備編
1.企業の選定状況に合わせたポートフォリオを考える
転職では複数社受けることがほとんどですが、内容をそれぞれ変えるべきか?という質問をよくお聞きします。もちろん会社の特性が違えば見せ方も変えるべきですが、限られた時間ですべての体裁を変えるのは時間と労力がかかります。まずどんな企業にも見せられる汎用的なベースを作った後、企業ごとにアレンジするのが良いでしょう。
例えば、受けようとする企業に明らかな得意領域があるなら、自分の実績もそこに近しいものを掲載した方が注目してもらいやすくなります。また全体の中で、それらの実績をなるべく最初に見せるのも、興味を惹く上で大切になります。もし余力があるなら、志望企業が大切にすることをくみ取ったオリジナルページを作るのも有効です。
2.行きたい企業の特徴をリサーチする
志望する企業については誰でも下調べをすると思います。まず最低限、Webサイトやブログ、SNSなどから公式に発信する情報を把握しておくのは必須ですが、そんな当たり前の情報を知っていたとしても採用担当者の気持ちは動きません。大切なのは「そんなことまでよく知ってますね!」と思わせる情報を把握しておくことです。
例えばその会社の社長や社員のSNSでの発言から、今注目しているデザインのトレンドや技術などの興味関心、問題意識を把握できます。また文章として残っていないイベントでの発言で印象に残った一言など、本人も覚えていないかもしれない情報を知っていると「うちの会社にとても興味があるんだな」と思われるでしょう。
3.採用担当者が注目するポイントをつかむ
採用担当者は自社に合う人材かどうかを見極める際、知識やスキルといった「ハードスキル」だけを見て判断しているわけではありません。同時に、相手に配慮ができる人か、意思疎通しやすい人かといった「ソフトスキル」も必ず確認しています。ソフトスキルがポートフォリオから見えるの?と思われるかもしれませんが、確実に見えます。
例えば読みやすいボリューム、構成、レイアウト、文章かどうかでも読み手への配慮は十分推し量れます。また掲載している情報から、過剰に自分を良く見せようと飾ったり、曖昧な言葉で説得力が無かったりすると、ソフトスキルが弱い人なのかな?と思われます。特に緑の文字で示したあたりがポートフォリオからも見えると心得ましょう。
4.募集人材に求められるレベルを正確に把握する
企業の募集要項には「リードデザイナー」「デザイナー」「アートディレクター」など様々な名称があります。それぞれ求められるレベル感が異なることは分かると思いますが、応募する際にはポートフォリオの中でも、自分がそのポジションに見合った人材であることを証明しないと、選考通過の可能性が低くなります。
基本的には経験年数で求められる力は変わります。経験年数が短ければ、制作力は未熟でも努力できる、素直であることが求められ、逆に経験年数が長いほど、制作力があるのはもちろん、教育できる、チームを作って動かせる、といった力が求められやすくなります。この傾向を元に、ポートフォリオの内容を検討する必要があります。
5.未経験者枠に求められるものをつかむ
募集要項によっては「経験の有無は問いません」といった言葉があります。ここで言う経験はすなわち「実務の経験がない」ということなのですが、同じ未経験者でも興味を持たれる・持たれないが分かれるのはなぜでしょう。ここではAさんとBさん、2人の行動パターンを示しているのですが、2人の間にどんな違いがあるでしょうか。
Aさんは勉強への投資もせず、やっているのはスクールでの課題だけ、デザイン業界を知るための活動量も少なめです。かたやBさんは学びの投資もいとわず、自主的に何かを制作し、業界への興味関心も高く、それらの行動を裏付ける情報も語れる人です。同じ未経験でもBさんのような人なら「興味あり」と思われるのではないでしょうか。
制作編
6.読み手が理解しやすい順序・言葉・量を考える
ここから実際に制作する際のヒントになりますが、まず気をつけたいのは実績の「順序」「言葉」「量」です。採用担当者の多くは通常業務と採用業務を兼務している人が多く、忙しい人がほとんどです。そんな忙しい人が短い時間でも実力を理解してくれる「順序」「言葉」「量」とはどんなものなのでしょうか。
まず順序は何事も結論→詳細の順に伝えること、言葉は抽象的ではなく具体的に伝えること、量は多すぎず少なすぎず丁度良いところを見極めること、この3つが大切になります。私が作ったポートフォリオもこれを徹底しており、多忙な採用担当者に「分かりやすいな」「読みやすいな」と思っていただけるようにこだわりました。
まず順序の話。スキルを伝える際にも、まず冒頭で「自分はUIやビジュアル作りを中心としつつ、それらをとりまく5つのスキルで構成されている」という全体像を示し、その後それぞれのスキルについて詳しく紹介するページを設けています。読み手を安心させるため、まず最初に話の全体地図を見せてあげるのは有効な手段です。
こちらは実績を紹介する部分です。実際の案件について紹介し始める前に、まず冒頭に具体的な言葉で「私ができるのは〇〇〇、〇〇〇、〇〇〇です」といった形での説明を挟んでいます。実績ページの中からでもその人のスキルは推し量ることはできますが、最初に結論を示してあげた方が読み手が理解する負担を軽減できます。
こちらは実績紹介の詳細です。ここでも小さな文字を読ませる前にまずタイトルで、この案件で注目してもらいたいポイントを述べています。忙しい採用担当者は、沢山書かれた小さな文字すべてに目を通してくれるわけではありません。私は制作当時、このタイトルだけ読んでもらえれば理解してもらえるようにしておこうと考えました。
次は言葉。多くの人は、いかにも良いことを言ってそうな、それっぽい抽象的な言葉で説明しがちです。しかし採用担当者に選ばれるデザイナーの多くは、日頃から自分でも具体的な言葉でプレゼンしていることが多いため、応募者の言葉ひとつから説明能力の有無を見抜きます。日頃から具体的に言語化する能力を鍛えておくことが大切です。
最後は量。ここは人によって意見が分かれるため、一概に「〇〇件掲載するのが良い」と言い切るのは難しいところです。そこで私はTwitterで「何件見て通過・見送りを決めているか?」というアンケートをとってみました。すべて隈なく見る人が大半だったものの、次いで多いのは3~5件という結果は参考になるのではないでしょうか。
7.実績が少ない場合の対処を考える
制作期間が比較的長い案件が多い会社に所属し続けた場合や、経験年数が短い場合、自然と実績の数も少なくなります。しかしポートフォリオは実案件のみを載せなければならない、というルールはありません。自分が持てるスキルを証明できる情報なら、案件以外の実績も積極的に掲載して良いと、私は考えています。
例えば、実際に採用されなかった没案を、没になった理由を踏まえてブラッシュアップしたものを掲載するのもアリですし、世にあるWebサイトを自分なりに分析し「自分ならこう作る」と改善案を作るのも良い試みです。またプライベートで何かこだわりを持って作っているものがあれば、作り手としての熱意を証明する上で有効です。
8.制作実績以外に掲載できることを考える
「4.募集人材に求められるレベルを正確に把握する」でも触れましたが、経験年数が長くなるほど組織に貢献する力も求められやすくなります。そういう意味でも案件だけでなく、組織の生産性を向上させるためのスキル・実績を掲載するのも有効です。多くの場合は面接時に聞かれるのですが、それをポートフォリオで先に見せるのです。
組織に貢献する力とはすなわち、他者を巻き込んで生産性を向上させる働きです。後輩への指導、積極的な情報収集と組織内への共有、勉強会の企画・実施、車輪の再発明を防ぐ工夫など、ここで紹介したもの以外でも沢山あるはずです。ポートフォリオ作りをきっかけに自分自身の活動を振り返り、言語化しておくのも大切な営みと言えます。
9.ポートフォリオを第三者にレビューしてもらう
頑張って作ったポートフォリオは思い入れも強いため、特にレビューなどもなく転職活動に利用することが多いと思います。しかしポートフォリオに限らず、作ったものを客観的に見るのは大切で、自分では気づかなかった粗が必ず見えます。自分以外の誰かにレビューを依頼するのは、選考通過率を上げるためにも大切なのです。
身近にレビューしてくれる人が居ない場合も、有料レビューサービスやキャリアカウンセラーに見てもらう方法があります。またSNSで尊敬するデザイナーにレビューをお願いする手もあります。Twitterでアンケートをとりましたが、五分五分の確率で見てもらえるかもしれないという結果でした。思い切って依頼してみるのも良いでしょう。
10.選考で損をするNG手法
最後は選考を通過しない人に共通する「NG集」です。採用担当者はポートフォリオの表面的な美しさだけを見るのではなく、そこに記された情報の裏にある「採用希望者の人柄」を見ます。採用活動は事業を継続する上でも土台作りに等しいため、誤魔化しや偽りを見抜く上でも、厳しい視点で内容を精査しています。
最後に
あらためて結論です。ポートフォリオは採用担当者の視点を踏まえて作ることで、確実にブラッシュアップすることができます。ここで挙げた10のヒントを参照することで、転職希望者の方々の選考通過率が高まることを願っています。
お知らせ
この記事内容を話したセミナー動画を無料でご覧いただけます
本記事の内容を私が話しながら説明した動画が、今日から7日間限定でWEBSTAFFのサイトから配信されます。文章で読んでいただくよりも分かりやすいと思いますので、より詳しく理解したい方はぜひこちらをご覧ください。
【7日間限定録画配信】元UI/UXデザイナー採用担当が教える!ワンランク上のポートフォリオ作り10のヒント
Clubhouseで限定イベントを開催します
特別企画として3月19日(金)の20:00からClubhouseにて「NTT Com「KOEL」荒砂氏と語る!デザイナー転職、ココだけの話【ポートフォリオ編】by WEBSTAFF」というイベントを開催します。このポートフォリオ作りのイベントを企画してくださったWEBSTAFFの石川さんと、ポートフォリオ作りに関してあれこれと雑談する予定です。当日は私以外でデザイナー採用に関わっている方もゲストとしてお話いただく予定なので、そちらもぜひチェックしてみてください。
NTT Com「KOEL」荒砂氏と語る!デザイナー転職、ココだけの話【ポートフォリオ編】by WEBSTAFF
月に一度「NeWork」でデザイナーのゆる飲み会やってます
昨年から開催していたデザインシステム雑談会に集っていただいた方を中心に、今年に入って毎月いろんな会社のデザイナーが集まれるゆるいオンライン飲み会を開催しており、次回は【3/26(金)】に開催します。ちょっと変わっているのが、集まりの場をNTT Com が制作しているオンラインワークスペース「NeWork」を使っている点で、色々とある小部屋に自由に出入りしたり、気になる部屋に聞き耳を立てたりといった楽しみ方ができて、過去に開催した際にもとても盛り上がりました。デザイナーという言葉に興味を持たれる方であればどなたでもご参加OKです。私のTwitterアカウント宛にDMいただければお誘いします!
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