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読書の効果が格段にアップする!精神科医が教える「忘れない読書術」

皆さんは読んだ本の内容をどのくらい覚えていますか?

私は月に2〜3冊ほどのペースで、今現在自分が持っていない分野の知識を知るために読書する習慣があります。エンタメというよりも勉強の感覚が強いのですが、一つの悩みとして「数ヶ月経つと読んだ内容を忘れてしまっている」という問題がありました。

時間をかけて読み終えた時には「勉強になった!」とひとしきりの満足感を感じるのですが、いざその知識を思い出そうとするとスラスラとその話ができなかったり、もしくはその話があったことすらも忘れてしまっている場合もあります。

読書の目的は「知識の蓄積」ですので、読むという行動自体には意味がないと言えます。後々その内容を説明できたり、どこかで引用したり、その内容について自分なりの考えを議論したりできるようになっていなければ意味がありません。

自分にとって価値のある情報をもっとしっかり記憶に定着させたい!そんなふうに考えていたところで「精神科医が紹介する忘れない読書術(著/樺沢紫苑)」という本に出会ったのですが、その内容がこの悩みを解決する上で非常に参考になったので、今回はその簡単な概要と、記憶に定着させるための3つのポイントをご紹介してみたいと思います。

記憶に定着するのは「何度も利用する情報」と「心が動いた情報」

人は経験したことを全て覚えられるわけではありません。人の脳は自然と不要な情報を忘れていくようにできています。具体的な脳の部位で言うと、情報は一時的な記憶場所である「海馬」で一旦仮保存され、重要であると判断されたもののみ、記憶の金庫とも言える「側頭葉」に本保存される、という流れになっています。

本を一通り読んだ時には、新しい情報が海馬に記憶として仮保存されますが、その後しばらくその情報に触れることがなければ、再利用される価値のない情報とみなされ、次々と流れ込んでくる新しい記憶に追いやられ、忘れ去られてしまいます。

つまり記憶に残すためには、その情報が大切なものなんですよと脳に判断させる必要があるのです。本書では、そう判断させるための二つの基準が紹介されています。それが「何度も利用すること」と「心が動くこと」です。

ポイント1)情報を何度も利用して記憶する 〜1週間に3回アウトプットする〜

まず何度も利用することですが、「利用する」とはすなわち「アウトプットされる」ということです。話に出したり、文章に書いたり、といった行動がアウトプットにあたります。本書の中では「最初のインプットから7〜10日以内に3〜4回アウトプットすることにより、記憶に定着する」と語られています。

具体的に紹介されているアウトプット方法としては、マーカーで線をひく、人に話す、SNSに感想を投稿する、書評を書く、といった方法が紹介されているのですが、私は以下の流れで3〜4回のアウトプットを重ねると、いつもより記憶に定着していることが実感できました。

1回目)Twitterにメモや感想を投稿する

まずTwitterを使って覚えておきたい情報をアウトプットしています。マーカーで線を引くのも手軽なアウトプットですが、私の場合は外部への情報発信と兼ねた行動にしたいので、Twitterを利用しています。入力に手間がかかるのが懸念点ですが、音声入力を利用すると手軽です。

2回目)会社での日報に感想を書く

私の会社では、自分が日々感じることを行動指針と照らし合わせて文章に綴る日報というルールがあるのですが、こちらを書く際に読んだ本の感想をまとめています。ここではある程度、人が読んで文脈を理解できる文章にしなければならないので、ネットでその情報について再度検索したり、参照元の書籍を読み返すこともあります。

3回目)人と話をする時に会話に盛り込む

次に、人と話をする時に積極的にその話題を持ち出すようにしています。と言っても、わざわざ「この間こんな本を読んで…」という形ではなく、なんとなく会話の内容が以前に読んだ本の内容と近しい時、「そういえばこういう話が…」といった形で会話に取り入れることがあります。

4回目)ブログに書評を書く

本書に限っては、最終的にこうしてブログに文章をまとめることで、4回アウトプットしていることになります。ここまでできると記憶の定着率は高くなります。こうして記憶を何度も利用することで、海馬にある記憶が側頭葉に移動して本保存され、自分の知識として今後も使えるようになるというわけです。

ポイント2)心を動かして記憶する 〜脳内物質分泌による記憶力強化を利用する〜

そしてもう一つの、情報が大切であると脳に判断させるための基準「心が動く」ことですが、これは喜怒哀楽など激しい心の変化が記憶に伴うことを指します。美しい景色を見て感動したこと、大好きな人やペットとの別れ、交通事故に合った瞬間、徹夜で仕事をして心底追い詰められたことといった記憶は、覚えておこうと意識しなくても記憶に刻まれます。

心が大きく動く時、人は脳内物質を大量に分泌しており、それらが記憶力を増強させるという原理が働いています。上記の図にある5つの物質、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィン、オキシトシンの分泌が、科学的裏付けによって記憶力に影響していると認められています。ここではその原理の活用例をご紹介します。

覚えておきたい内容や感想をSNSに投稿する

SNSへの投稿は、第三者に見られることが前提になります。発言内容に責任が伴うため、内容の正確な記録のために思い出す作業にも真剣になり、それなりの緊張感が生まれて記憶に定着されやすくなるのです。また、第三者からの「いいね」や「リツイート」といったフィードバックには「嬉しい」「見てもらえた」という感情が働くことも記憶に良い影響を与えます。

読了の目標期間を決める

人は頑張ればギリギリ達成できる、程よい難題に取り組むと、ドーパミンが分泌されてより集中力が高まり、記憶力が高まります。読書に制限時間を決めると、集中力が高まり、脳が高いパフォーマンスを発揮するのです。この章を電車を降りる前に読み切ろう、お昼の間にここまでを読もう、といった小さなマイルストーンから、今月は3冊読もう、今年は30冊読もう、といった大きな目標も効果的です。

自分にとって少し難しいくらいの本をセレクトする

頑張ればギリギリ達成できる程よい難題は、書籍のセレクトでも設定できます。当たり前の内容で易しすぎる内容だったり、逆に難しすぎて全く頭に入ってこない書籍をセレクトすると、ドーパミンは分泌されません。出てくる言葉を少し調べながら読み進めるくらいに程よく難しい本が、最も適切なレベルと言えます。本書内では自分の知識レベルを客観的に把握して書籍を選ぶことがとても重要であると語られています。

ポイント3)スキマ時間を利用して読書する

日頃なかなか読書の時間を確保できない、と考える方は多いのではないでしょうか。本書で特に驚いたのは、読書はあらたまって一定の時間を確保しなくても、日頃の活動の「スキマ時間」を利用する形でも十分に学びの効果は得られる、という内容でした。

人は何かの作業を行う時、初めと終わりで集中力が高まることが知られており、心理学ではこの現象をそれぞれ「初頭努力」「終末努力」と呼んでいます。要は、最初の「やるぞ!」という気持ちと、最後の「ラストスパート」のことです。

15分で本を読むと、初頭努力で5分、終末努力で5分、合計10分間記憶力の高い状態での読書が可能になり、これを4回繰り返すと40分、記憶力の高い状態になります。60分連続で読書すると、初頭と終末で10分しか記憶力の高い状態が保たれません。

このように、15分程度のスキマ時間の繰り返しでも、長時間の読書以上の効果が得られるのです。私自身、あまり長時間本と向き合って読書を続けるのが苦手なタイプなのですが、この話を知ってからはより短い読書時間を積極的に確保し、気持ち的にもリラックスして読書ができるようになりました。

まとめ

私は本の虫と呼ばれるほどの熱心な読書家というわけではなく、前述の通り、長時間集中して1冊の本を読み続けるのが非常に苦手なタイプです。しかし、何か物事を深く知る時には、Web上での断片的な「情報」よりも、書籍からまとまった「知識」を得ることの重要性はひしひしと感じていました。そんな中で上記のような、精神論ではない科学的な実証データに基づいた効果的な読書術を知ることができたのは、非常に得るものが大きかったと感じています。

また今回ご紹介した記憶のメカニズムを知ると、読書だけでなく仕事や私生活など、幅広い応用が可能になります。インターネット環境が充実した今の時代で生きる上では、様々なアウトプットの期会があります。これらを積極的に活用し、自分の知識の増強に役立てることが重要であると、改めて感じました。

こちらで紹介した内容以外にも本書には、読書が人生に与えるメリット、書籍の選び方、効率的な読書術など、読書を始める前に知っておくと非常に効果的な情報が沢山詰まっています。全体を通して読みやすく、短いながらも実践的な内容も含まれているため、今後読書で自分の知識を厚くしていきたいと考えている方には役立つ内容です。

読書を充実させたい人に、ぜひおすすめしたい一冊です。(Kindle Unlimitedに登録している方なら無料で読めます。)


日常生活の中に隠されていた、Webユーザビリティ10の視点

ユーザビリティ

Webサイトをデザインして、上長であるディレクターやクライアントといった第三者にそのデザインを見せた際に「これボタンに見えないよ」「綺麗だけど文字小さすぎない?」「これリンクなのかどうか分からなかった」といった指摘を受けたことは、誰しも1度は経験があるのではないでしょうか。

UXの構造やユーザビリティについての理解が浅いうちは「見た目に綺麗、カッコいい、かわいいといったビジュアルを作ること」が自分の仕事と捉えてしまい、先に挙げたような指摘を受けることが多くなります。特にユーザビリティに関する知識は、UIをデザインする上で、魅力的なビジュアルを作る能力と並行して身につけていきたい知識です。

そこで今回は経験の浅いWebデザイナーの方に向けて、ユーザビリティとは何なのか?を知る入門編として「ほんとに使える「ユーザビリティ」」という非常に読みやすい書籍をご紹介したいと思います。本書は人が生活する中で起きる身近な「使いにくさ」からユーザビリティについての視点を語り、Webサイトのユーザビリティはどうあるべきか?という流れで話が進むため、自分が作っているWebサイトが目的達成のためのツールであることを改めて認識できる内容になっています。

本エントリーでは本書の流れに沿って、ユーザビリティを「使いやすさ(実質的な面)」「優美さ・明快さ(心理的な面)」の2つの観点から、私自身の解釈と思い浮かんだ良い例・悪い例を含めてポイントをご紹介したいと思います。

Webユーザビリティ10の視点

※悪例としてピックアップしている項目は、対象ユーザや状況によって悪例にはならない場合もあります。

使いやすさ

1)機能性 ~きちんと動作する~

機能性とは、最も基本的な「きちんと動作するか?」ということです。いかにUIが美しいものでも、そもそもの目的が達成できない、実行できないものであれば、全く意味を成しません。当たり前のことのようにも思いますが、UIをデザインすることを目的に作業をすると、案外見失いがちな視点と言えるのではないでしょうか。

日常生活での悪例)

  • スイッチを入れても明かりが付かない
  • 蛇口をひねっても水が出ない
  • 呼び鈴を押しても音が鳴らない

Web上での悪例)

  • リンクをクリックすると404エラーが表示される
  • フォームに万人が持ち得ないFAXの番号が必須になっている
  • ページの読み込み時間が極端に長い

“機能性”

Amazonでは、未ログイン状態で購入手続きを進めようとすると、まずログインすることを要求されます。後々、様々な情報をフォームに入力した後で、もしもこのIDとパスワードを忘れていたらどう感じるでしょうか。

2)反応性 ~動作していることが分かる~

反応性とは、ユーザが自分のアクションに対して動作していることを理解できることです。信号を見る(視覚)、警告音を聞く(聴覚)、触るとザラザラする(触覚)、甘いと感じる(味覚)、香りを嗅ぐ(嗅覚)など、人間は五感を使って反応性を判断します。Webサイト上では、主に視覚と聴覚に対してのフィードバックを返すことで、反応性を確保することができます。

日常生活での悪例)

  • カフェで店員を呼んでも返事がない
  • キーボードのボタンを押しても押し心地がない
  • マウスをクリックしてもカチッと押した感がない

Web上での悪例)

  • ボタンにカーソルを合わせてもカーソルが指に変わらない
  • ローディング中の読み込み状況が表示されない
  • ECサイトで商品を購入した後、確認メールが届かない

反応性

ANAはボタンであれナビゲーションであれ、マウスオーバーアクションが設定されていません。使えない訳ではありませんが、反応性が重視されているとは言えないでしょう。

3)人間工学性 ~人間が自然に使える~

人間工学とは、人間の動作や特性を前提に快適な環境を目指す学問です。人に何か物事を達成してもらう時には、人間の肉体的・心理的な能力を理解した上で、自然にストレスなく目的を達成できるよう、配慮しておく必要があるのです。馴染みの深いところで言えばアーロンチェアなどが分かりやすい例ですが、Webサイトの中でもこの視点での配慮が必要になります。

日常生活での悪例)

  • テーブルと椅子の高さが合っていない飲食店のテーブル
  • スーパーの通路で2台のカートがすれ違うのにギリギリな幅しかない
  • 汗をかくと滑って握れず、文字を書きにくいボールペン

Web上での悪例)

  • ナビゲーションのクリッカブルエリアが小さすぎる
  • 入力フォームでTABキーを押しても項目間を移動できない
  • ページをスクロールしていてGoogle mapの上にカーソルが乗るとMapを拡大してしまう

人間工学性

ライオンのグローバルナビはドリルダウン形式のメニューですが、カーソルを合わせて展開されるタイミングが少しだけ遅く設定されているため、「開発STORY」にカーソルが当たってもすぐに反応しないよう配慮されています。

4)利便性 ~必要なものが必要な場所にある~

利便性とは「ユーザに必要な物が必要な時に必要なところにきちんと存在すること」「ユーザにとって手軽であること」です。綿密に設計されたカスタマージャーニーの元、その瞬間、そのシチュエーションでユーザが何を思い、何を必要としているのかをできる限り具体的に想定し、最適な選択肢を用意しておく必要があります。

日常生活での悪例)

  • スーパーの肉売り場と焼肉のタレの売り場が離れた場所にある
  • お好み焼き店に口や手をふくためのティッシュが無い
  • ホテルの部屋内の幾つかの照明スイッチがあちこちに散らばっている

Web上での悪例)

  • 主要なナビゲーションが画面上のあちこちに散らばっている
  • 掃除機の詳細ページに専用紙パック詳細ページへのリンクが無い
  • 200字までしか入力できないことがエラーが表示されるまで分からない

利便性

グリコのサイトはあるサイズではグローバルナビがハンバーガーボタンになります。ハンバーガーボタンがメニューであることに気がつかない人、ウィンドウサイズを広くするとメニューが表示されることに気がつかない人はどう感じるでしょうか。

5)万人保証性 ~正しい方向へ導く~

「人はそもそも間違えるものである」という前提に立ち、誤った使い方をしても利用者に被害が出ないよう考慮するということです。制作・設計者の想いとは裏腹に、ユーザは思わぬアクションを起こすことがありますが、そういった行動も優しく正しい方向へ導くことが求められます。

日常生活での好例)

  • 正しい向きにしか挿入できない電池ボックス
  • ドアが閉じなければ起動しない電子レンジ
  • 人が座っていないと水を噴射しない洗浄便座

Web上での好例)

  • フォームを閉じる際「入力したデータが削除されますがよろしいですか?」というアラートが出る
  • 404ページにサイト内の主要ページへのリンクが表示される
  • URLのタイプミス対策としてサブドメインでワイルドカードが設定されている

“万人保証性”

日立ソリューションズのお問い合わせフォームは、項目入力途中にページを離脱しようとすると、入力完了までの件数と、離脱すると入力内容が消えることをアラートで教えてくれるため、誤った操作をしたユーザに優しい作りと言えます。

優美さ・明快さ

6)可視性 ~きちんと見える~

可視性とは「要素が目に見えること」です。一生懸命時間をかけてUIをデザインしたとしても、それが見えない、あるいは認知できない場合、存在しないのと同じことになります。何かに隠されたり、視界にあっても認識できなかったりといったことのないよう、デザインする際に考慮する必要があります。

日常生活での悪例)

  • 車のバックミラーの角度を操作するスイッチがどこにあるか分からない
  • 調味料のラベルに書かれた調理法の上に大きな値引きシールが貼られている
  • 半分に折られたタブロイド紙。トップ記事の見出しが折られた下半分に配置されている

Web上での悪例)

  • 重要なボタンがデコレーションされすぎてバナーのように見える
  • ファーストビューで情報が完結しているように見え、スクロールできることが分からない
  • リンクテキストがリンクテキストに見えない。

“可視性”

DELLのサイトはスクロールするとウィンドウ上部に固定のナビゲーションが表示されますが、少々分厚すぎるため、コンテンツの内容を隠す面積が大きくなっています。

7)理解可能性 ~基本的理解を共有する~

理解可能性においては「使う人と作った人が同じ基本的理解を共有していること(共有参照)」が重要であると、本書の中では語られています。作り手にとっての当たり前だと考えていることも、使い手にとっては未知の領域でだったりします。その共有していない部分を、言葉・イメージ(写真や図版)・音などで補足する必要があります。

日常生活での好例)

  • バス停の電子時刻表に「あと3分で到着」と表示されている
  • お風呂のバスマットに足の形がプリントされていて、バスタオルと間違えないで済む
  • どこの国の硬貨・紙幣にも数字が大きく表示されている

Web上での好例)

  • アイコンの下にアイコンの意味を示すテキストがある
  • ECサイトの洋服で、地面に置いた写真でなく、モデルが着た写真を使っている
  • PDFへのリンクにデータ容量(⚪︎⚪︎KB)が表示されている

“理解可能性”

Tumblrのダッシュボードの右上には様々なアイコンが並んでいますが、方位磁石、笑顔、雷といったアイコンが何を意味するのか、一目見ただけで理解するのは困難でしょう。使い慣れれば分かるのかもしれませんが…。

8)論理性 ~なぜ?と思わせない~

使い手は目的が達成できない時や、達成はできるが違和感を感じる時、「なぜ?」と思います。ユーザに対して「なぜ?」と思わせるシチュエーションには、ユーザビリティ的な欠点が潜んでいると言えます。作り手は使い手に対して「なぜ?」と思わせないタスクフローを想定し、用意しておく必要があります。

日常生活での例)

  • エレベータのボタンを押しても点灯しないのはなぜ?
  • このシャンプーのキャップは手が濡れていると開けられないのはなぜ?
  • 冷蔵庫の扉は閉まっているのにピーピーと警告音が鳴り続けるのはなぜ?

Web上での例)

  • ボタンに見えるのにクリックできないのはなぜ?
  • 掃除機用の紙パックが本体と同じページに掲載されていないのはなぜ?
  • 航空券販売サイトがマイレージ番号を登録させてくれないのはなぜ?

“論理性”

楽天の商品詳細ページで購入ボタンをクリックしようとした時、先に選択しておかなければならない項目があった場合には、そのことを伝える内容が表示されます。購入できない「なぜ?」に対する答えが用意されている好例です。

9)一貫性 ~ルールを保つ~

現実世界でもWebサイトでも一貫したルールが保たれることで、ユーザは目的をより達成しやすくなります。言葉による言い回し(ラベル)が統一されているか、同じ機能を持つものは視覚的に同じものと認識できるか、世の中に広く普及しているルールとあえて違うルールにする必然性があるか、といった点を考慮する必要があります。

日常生活での悪例)

  • 1つのボタンに2つ以上の機能が備わっているテレビのリモコン
  • 開け方が分からないワインボトルの栓
  • お洒落なカフェのトイレにある水の出し方が分からない蛇口

Web上での悪例)

  • お問い合わせボタンの色や形がページや配置箇所によって変わっている
  • ナビゲーションの位置がページによって違う場所に配置されている
  • 2つの異なる機能に対して、1つの同じアイコンが使われている

“一貫性”

NHKネットクラブのログイン画面には、緑のテキストリンク、オレンジのテキストリンク、緑の強調文字が混在しています。どれがリンクでどれがリンクでないのか、一目でわかるような一貫性が保たれていません。

10)予測可能性 ~次に何が起こるか分かる~

予測可能性とは「次に何が起こるかがはっきりと分かる」ということでです。期待通りの動きをしてくれない時、ユーザは使いにくさを感じます。また、斬新さや追求するあまりに一般的な表現から外れることも、ユーザの予測から外れやすくなります。ユーザの状況を踏まえて予測するであろう答えを分かりやすく用意しておくことが大切です。

日常生活での悪例)

  • コンビニ各社のドリップコーヒーのサイズ表記に、Small・Mediam・Largeと、Regular・Largeが混在する
  • タッチパネルとモニタの下の料金ボタンを組み合わせて使う大阪地下鉄の券売機
  • 室内照明のスイッチがドアを開けたところと違う場所にある

Web上での悪例)

  • 特殊すぎる形で一般的な形からかけ離れたナビゲーション。
  • いくつステップがあるのか分からないお申し込みフォーム
  • 別ウィンドウが開くことを明示していないテキストリンクやボタン

“予測可能性”

ポカリスエットのサイトで、画像をカルーセルで切り替えられると思ったらページ自体が切り替わってしまいます。画像を切り替えたいと思っていたユーザは予想しない挙動に一瞬混乱するのではないでしょうか。

まとめ

ユーザビリティとは、日常生活の中でもWebサイトの中でも同じように存在するものです。本書を読み進める中で、自分が作り出すWebサイトにも、普段生活の中で使う道具やサービスと同じように、利用可能性や使いやすさがあることを自然と認識できるため、ユーザビリティの着眼点が身につくと思います。このエントリーの説明はあくまでも、本書の抜粋と私自身が探した事例ですので、より深く知識を身につけたい方は実際に本書の方をご参照の上で、自身が作るWebサイトにユーザビリティ的な問題点が無いかを検証してみてください。

冒頭の話題に戻りますが、絵作りだけを目的としてしまう経験の浅いWebデザイナーは、Webサイトは目的を達成するためのツールであることを、早い段階で認識し直す必要があります。分業化されて部分的な作業のみを担当する中では、最終的に手がけたWebサイトが実際に人に使われているということを想像しづらい面もあるでしょう。しかし、自分が作り出すWebサイトにも確実に使い手が存在し「このサイト便利だな」「このサイト全然使えない…」といった感情を抱いていることは事実です。

また一つ気を付けたいのは、ユーザビリティとは「誰にでも共通して使える・使いやすい」ということではない、ということです。上記で掲載している悪い例であっても、想定するユーザが容易く使える場合には、問題が無いと言えます。また使い勝手の悪さを想定した上でもビジネス的にそのように作るべき、と判断する場合もあることを心得ておきましょう。

美しいビジュアルを作る力を磨くと共に、上記で紹介したような「ユーザビリティへの理解」を深めていくことをオススメします。

“カフェで感じたユーザビリティ”

今回の冒頭のイラストは、とあるカフェで見かけた光景でした。ユーザが目的を達成しやすいのはどちらでしょう?子連れの母親だったら?学生カップルだったら?と様々な視点で考えてみると、ユーザビリティに対する視点は確実に深まります。そういった視点を養えば、おのずとWebサイトのデザインも使い勝手を考えられるようになるのではないでしょうか。


継続できないあなたが今あらためて読むべきバイブル「自助論」のススメ

自助論

誰しも人は仕事を続ける中で「昨日より今日、今日より明日、去年より今年は成長していたい」と考えると思います。デザイナー・アートディレクターであれば「もっと魅力的なデザインを作りたい」「プレゼンが上手になりたい」「後輩に効率的に自分の持つ力を伝えたい」といった願望を持つと思います。しかし、そういった将来必要になるスキルを身につけるための活動は、いかんせん目の前の忙しさにかまけてないがしろになりがちです。どうしても今、目の前の仕事をこなすことで精一杯になり、その先につながる活動を続けるまでのバイタリティが保てない…と感じる人は多いのではないでしょうか。

そんな中、昨年末に「自助論」という本に出会いました。この本は1858年にイギリスで出版されたもので、現在書店に数多く並ぶ自己啓発本の草分け的な存在と呼ばれています。日本では明治時代に出版され、当時福沢諭吉の「学問のすすめ」とともに大ベストセラーとなっており、今現在でもAmazon.co.jpのレビューで100件以上のレビューがありながらも評価の平均は4.4という高評価を得ている本です。

本書には、忙しいことや時間が無いことを言い訳にせず、どうやって自分が決めた活動を継続するのか?という問題に対してのヒントが沢山詰まっています。このエントリーでは、私自身の成長を見据える上でとても参考になった考え方、心に響いた考え方を5つ、実際の文章を抜粋してご紹介したいと思います。

(1)自助の精神を持て

どんなに立派で賢い人間でも、確かに他人から大きな恩恵を受けている。だが、本来の姿から言えば、我々は自らが自らに対して最良の援助者にならなければいけないのである。

「自らの最良の援助者」という言葉は少々回りくどい言葉ですが、言い換えれば「自分自身に投資し、自らを磨く」という意味です。上司や世間からの応援・評価を活動エネルギーの源に据えると、そういった第三者の一挙手一投足によって自分の意思が影響されがちですが、自らで自分自身に投資を続けることを活動の根源に据えると、他人からの影響は受けません。目標を達成するためには、他者を起点に置かずに自分自身にベクトルを置くべきだ、という考え方です。

もちろん「上司に認められたい」「アイツにだけは負けたく無い」といった活動エネルギーがプラスに働くこともあると思います。しかし、途切れることのない自分自身への投資こそが、自分自身への最大の応援になるという考え方は、自分が掲げる目標に向かう上で非常に理にかなった考え方だと感じます。

(2)結果は必ず努力の上に成り立つもの

人間の優劣は、その人がどれだけ精一杯努力してきたかで決まる。怠け者はどんな分野にしろ、すぐれた業績を上げることなど到底できない。骨身を惜しまず学び働く以外に、自分をみがき、知性を向上させ、ビジネスに成功する道はない。

当たり前な話で、言葉にすると「ただの正論」と思う方もおられると思いますが、やはり生きることの基本として「努力」は非常に大きな力がある、という話が強く語られています。

書籍全般を通じて様々な偉人の実例が語られているのですが、誰一人として楽をして結果を出した人は登場しません。血の滲む努力と多くの時間を費やすることを覚悟し(もしくは自然とそのように行動し)、自分の生き方に真っ向から向き合ってこそ、人間の優劣は決まるものだと説いています。努力することもなく結果を求めるような都合の良い考え方は通用しない、と言い換えることもできます。

(3)勤勉の習慣を身につけよ

最大限の努力を払ってでも勤勉の習慣を身につけなければならない。それさえできれば、何ごとにおいても進歩や上達は目に見えて早くなるだろう。

人は学び続けることで人格が磨かれるという話です。30歳を超えてある程度キャリアを重ねてきた人であれば、自分自身のそれまでの経験を活かしてそれなりの活動を続けることはできると思います。しかし、今以上に活動の幅を広げたり、新しい目標を達成したいと考えるのであれば、やはり基本に立ち戻って新たな物事を学ぶ姿勢を持たなければ、前に進むことはできません。

またその勤勉自体の重要性と合わせて「学び方」についても参考になる節が幾つかあります。

単なる知識の所有は、知恵や理解力の体得とは全くの別物だ。知恵や理解力は読書よりもはるかに高度な訓練を通じてのみ得られる。一方、読書から知識を吸収するのは、他人の思考をうのみにするようなもので、自分の考えを積極的に発展させようとする姿勢とは大違いだ。

読書を自己啓発の手段と思い込んでいる人は多い。だが実際には、本を読んで時間をつぶしているだけの話だ。

自分自身が勉強すれば、その内容についての印象はいつまでも鮮明に残る。人から与えられた不十分な情報とは違って脳裏にはっきりと刻み込まれる。

ネット上でバズっている記事や専門書籍を読んだりすること、セミナーなどで著名人の話を聞きに行ってみたりすることは、さも自分が勉強しているような気分になりがちなのですが、実のところ、それ自体には本来意味が無いことを語っていると思います。重要なのは、それらをヒントに自分自身の環境に置き換えて考えてみたり、調べてみたり、実行してみたりといったアクションにまで結びつけることが、真に有益な学びである、という話だと感じました。

(4)克己心(こっきしん)を養え

自分の悪習をわずかでも改めるより、国家や教会を改めるほうが簡単だと思い込みがちだ。一般的にいって、人は自らの非を直すより隣人の非をあげつらうほうが、よほど好みにあっているようである。

克己心(こっきしん)とは、自分の欲望を抑える心です。人は往々にして、自分自身の行動を改めずに環境のせいにしたり、自分自身で決めたことをなにがしの理由をつけてやらなくなったりします。しかし自助論では、自分の将来の利益のために現在の満足を犠牲にする、という克己の精神が大切であることが語られています。また大切であることを語る反面、その克己の精神を身につけることは非常に難しいとも説いています。栄光や成功は、弱い自分の心に打ち勝ち続けてこそ得られるものであるということが分かります。

(5)修練無くして結果なし

ある時、ベネチアの貴族がミケランジェロに自分の胸像作成を依頼したところ、ミケランジェロはそれを10日で仕上げ、代金として金貨50枚を請求した。貴族は「たかが10日で仕上げた作品にしては法外な代金だ」と抗議したが、ミケランジェロはそれに対し「あなたはお忘れです、胸像を10日で作れるようになるまでに、私が30年間修行を積んできたということを」と答えた。

イタリアの彫刻家、ミケランジェロの非常にキャッチーなこのエピソードは、ネット上で見かけた方も多いのではないでしょうか。圧倒的な成果を残す人は必ずどこかでその成果にたどり着くための努力をしているものだ、という話がこの他にもいくつも紹介されています。先ほどの克己心とも重なる部分ですが、大きな成果を残す人は自らの弱い意思を制御し、コツコツとした努力を続けた事実が必ずあります。前回の記事で、上手なプレゼンテーションを行う際にも地道な練習が必要という話を挙げましたが、まさにこの話に通ずる部分があると感じました。

当たり前のことを当たり前にやる大切さ

書かれている内容は、斜めから読めば「正論」「きれいごと」「当たり前」と捉える人もいるでしょう。事実として中で紹介される実例は、2016年を生きる私たちの社会の環境にそのまま置き換えてみると、うまく当てはまらないものも多少はあります。加えて昨今の自己啓発本にあるような、具体的な行動パターンの変化を促すような実例もありません。しかし上記で紹介した考え方は、明日から使えるTIPSのような話があふれる現在、そういった上辺のテクニックに流されずに改めて大切にすべきこと、生きることの基本として心得る話だと私は感じました。

自助論は、当たり前のことを当たり前にやることが大切ということを、淡々と語りかけてくる本です。この本が出版されたのが今から150年以上も前の話。その当時から今に至るまで、世界中で永く読み継がれてきたと考えると、人の生き方とは?活動する意味とは?という大きなテーマに対して、普遍的で時代に流されない、数々のヒントやエッセンスが詰まっているのではないかと思います。

自分の成長に壁を感じる人にとっては、非常に得るものが多い書籍なのではないかと思います。私自身はこの自助論の内容を、改めて自分自身の活動の中での基本として据えておきたいと感じました。