去る6月22日(木)に渋谷で行われた、株式会社アジケ主催のイベント「UX dub〜UX/UIの現場、最前線〜」に登壇させていただきました。今回のエントリーはこのイベントで発表させていただいた内容のフォロー記事になります。
日頃のクライアントへのUIデザインの提案において、なかなか作ったものに対して納得していただけない、スムーズに話が進まない、といった状況は、誰しも経験するものかと思います。しかし近年、私自身の経験を振り返ると、以前に比べてスムーズに提案が進むようになったと感じていました。
そんな時にお誘いいただいた、このイベントの「UX/UIの現場、最前線」というキーワードを聞き、私の所属するベイジではどのようにパートナーをリードしてUIに落とし込んでいるのか?をお話してみようと思いました。
この内容について、我々が作るWebサイト自体のUXやUIを深く追求することももちろん大切なのですが、そこに加えて我々自身がクライアントに最良のCX(カスタマーエクスペリエンス)を与えることも大切だと考えています。そこから、主に以下4つの内容でお話させていただきました。
- 1)良好な関係性を築きやすい顧客を選んでいるか
- 2)顧客が安心できる進行を心がけているか
- 3)論理的なデザイン提案を行っているか
- 4)専門家としてリーダーシップを発揮しているか
1)良好な関係性を築きやすい顧客を選んでいるか(P15)
企業に所属する個人のデザイナーで関与できる人は限られますが、良好な関係性を築けそうな顧客を選んで仕事をすることは、プロジェクトを円滑に進める上でも非常に重要なポイントです。計画性が低く、制作会社を下に見ているクライアントからプロジェクトを受注すると、スムーズな進行が阻害される危険性があるということです。
ベイジではプロジェクト開始前にここを厳しくジャッジしているため、クライアントから不条理な難題を押し付けられることもなく、建設的にプロジェクトを進めることができています。実はここをしっかり抑えている会社は、デザイナーにとっても非常に仕事がしやすい環境であると言えるのです。
しかし、ジャッジする以前に問い合わせ自体が少なければ、仕事を選り好みすることはできません。そこで必要になるのが、戦略的にクライアントになりうるターゲットに対して、常日頃から自分たち自身の強みを積極的に発信し続ける行動です。オンライン・オフライン問わず様々なチャネルから自分たちの強みを可視化しておくことで、プロジェクトを進める段階で良好な関係性を築きやすくなります。
UIデザインを提案する以前に、そもそものところでこの道筋を作っているかどうか、道筋に沿って強みを理解してくれている顧客を引き寄せているかが大切になるのです。
2)顧客が安心できる進行を心がけているか(P22)
プロジェクトを通して、常にクライアントは不安を感じているものです。提案内容自体のクオリティの高さは当たり前に求められるものとして、その上でクライアントに安心してもらえるような質の高いコミュニケーションを心がけることも、提案内容の納得感に間接的に影響を与えると考えています。
その点、コミュニケーションは非常に属人的になりがちです。上流工程から下流工程に渡って、人が変わっても質の高いコミュニケーションを継続するためには、チーム全体でクライアントにどのように対応すべきか?を共有しておく必要があります。具体的に言えば、以下のようなコミュニケーションルールを整備しておく、ということです。
- プロジェクト定義書の共有
- WBSによるスケジューリング
- メールは誰かが1時間以内に一時返信
- 打ち合わせ前日までに当日の確認資料とアジェンダを共有
- 打ち合わせ後は1営業日以内に議事録を共有
- 必要事項はWBS以外にイシューリストで担当者と機嫌を明確化
- 行動指針と日報で何のためのルールかを認識
実はここでお伝えしている内容は、ベイジのコーポレートサイトの中でお客様向けに紹介しています。我々自身が約束する行動を、プロジェクトが始まる前段階で見える化しておくことも、一つのコミュニケーション作りと言えます。こちらでさらに詳しくその内容を紹介していますので、ぜひご覧ください。
3)論理的なデザイン提案を行っているか(P29)
ベイジではデザイン提案の際、完成したビジュアルだけを見せるようなことはありません。提案したデザインに対して、なぜこうすべきなのか?を論理的に説明します。プロジェクトやクライアントの特性によって順序や内容は変わりますが、代表的な説明事項として以下の5つをご紹介しました。
デザインの役割定義(P31)
UIデザインはコンテンツ、構造、機能、情緒表現の4つで構成されています。その中でも、提案するビジュアルデザインにおける役割は機能と情緒表現になります。この話を最初にクライアントと共有しておくことで、デザインの見た目の表層的な部分(機能や情緒表現)と内容自体の根本的な部分(コンテンツや構造)の問題は分けて考えましょう、と話ができるようになります。
ターゲットの再確認(P35)
ベイジでは戦略提案の時にターゲットを定義して共有していますが、デザインを提案した際には、個人的な好みの話、抽象的な感性の話、なんとなく好き(嫌い)といった話が出てきがちです。そうした際に事前に定義したターゲットを振り返り、作り手である我々がどう思うかではなく、ターゲットならどう考えるか?という視点に立ち返りましょう、と伝えるようにしています。
ブランドの明確化(P41)
ブランドは基本的に目には見えので、具体的な言葉にして共有しておく必要があります。ベイジではクライアントのブランドを、属性・ファクト(誰も否定できない事実)、機能ベネフィット(機能面での効能や作用や利便性)、情緒ベネフィット(顧客が受ける精神面での便益)、ブランドパーソナリティ(ブランドを擬人化するとどういう人なのか? )、ブランドタグライン(ブランドの約束)で構成されるピラミッドに構造化して共有しています。
トレンドやセオリーの啓蒙(P45)
クライアントによっては最近のWebデザインの特性を知らないこともあります。タッチデバイスの普及によるUIの大きさの変化、マルチデバイス化に伴うデザインのシンプル化をはじめとした、技術革新によるUIデザインのトレンドやセオリーの変化の話です。これらあらかじめ説明しておくことで、提案するデザインに妥当性が生まれ、認識の違いによる無駄な議論を回避することができます。
デザインの提案(P50)
実際のデザイン提案の際に気をつけるポイントは3つあります。1つは提案の幅をもたせること。提案物の数を増やせばいいという話ではなく、クライアントが予想しない部分まで考え抜かれていないとデザインに対する納得感というものは得られにくいものです。そして2つ目は意味をきちんと説明すること、3つ目は対面することです。経緯や意図を、必ず会って説明することが大切です。
4)専門家としてリーダーシップを発揮しているか(P57)
この「専門家としてのリーダーシップ」が特に、クライアントにデザインを納得してもらう上で大切になるポイントです。クライアントは我々に対して専門家としての意見を求めているため「この場合◯◯するのがベストです」「◯◯と考えるべきです」と自信を持って対応できなければなりません。
具体的に言えば、言われたままの要望をそのまま返すような行為、こういう姿勢であればあるほど、提案は後手後手にまわって、クライアントの信頼は獲得できなくなります。また、もしもクライアントの認識が間違っていれば指摘してがあげる態度も必要です。
そして、専門家びいきな説明をしない、という点も重要です。「デザイン的に見るとこれが優れている」とか、「デザイナー的にはこうした方がいい」といった、根拠のない話は回り回って提案物の評価に悪影響を及ぼします。
まとめ
Webサイトを作る作業は、デザインデータやHTMLを作ることだけではなく、クライアントとの関係性や、チームの関係性を作ることも含まれます。単純にブラウザに映し出される絵だけを作るという意識を変え、それらを作るために関わる人々とどのような関係性を築いていくか、という部分まで配慮することで、クライアントからの信頼を得ることができるのではないでしょうか。
UX dub について
※掲載写真はすべてアジケさん撮影
今回はアジケさん初主催のイベントで、告知当初からUX/UIに関心の高い多くの方々から多くの申し込みがあり、結果的に大盛況のイベントとなりました。このイベントの趣旨を、アジケの神田淳生さんから以下のように伺っています。
dubとはレゲエ用語で、曲をリメイクすること。UXの視点を活用してWebサイトやサービスをより成長させることや、クリエイターが集まって一つのサービスを(リ)メイクすることをイメージして付けたタイトル。
アジケさんのオフィスではBGMにdubを流しているというところから、イベントの最中も緩いdubのBGMが流れており、非常にアジケさんらしい、緩やかなムードのイベントでした。今後もこのイベントは継続的に開催されるとのことです。
今回一緒に登壇されたのは、オハコの菊池涼太さん、アルチェコの熊澤宏起さん、スタンダードの鈴木健一さん、そしてアジケの梅本周作さんといった面々で、各社の業務を通じたUX/UIに関する、まさに最前線の情報が語られました。私がお話した内容以外の部分は、すでに仕事の早い方々がまとめてくださっていますので、こちらに関連情報として掲載する形とさせていただきます。
今回の登壇の機会を与えていただいたことで、私自身が日々行っているデザインの提案や、デザイン提案にまつわるコミュニケーションがどのようにクライアントとの関係性作りに影響を与えているのかを、改めて見直すことができました。お誘いいただいたアジケの梅本さん、神田さんに深く感謝いたします。
レポート記事
【UX dub Vol.1 イベントレポート】UX/UIデザインの現場、最前線
【イベントレポート】UX dub「UX/UIデザインの現場、最前線」(前編)
【イベントレポート】UX dub「UX/UIデザインの現場、最前線」(後編)
「UX/UIの現場、最前線」イベントレポート
UX dub 座談会
独立部隊、掛け持ちナシ…?クライアントにコミットするUX/UIデザイン4社の仕事術とは
これから進むべき道とは?UX/UIデザイン会社が思い描く未来像
職域を超えろ。ステレオタイプに捉われない、UX/UIデザイナーのあるべき姿とは