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宣伝会議タイポグラフィ実践講座(無料体験講座)での古平正義さんの話

タイポグラフィの実践講座

宣伝会議がタイポグラフィの実践講座を開催するそうで、本講座に先立って無料体験講座が4月21日に開催されていたので、参加してきました。講座の内容は、実践というよりは古平さんの実績紹介を通じ、タイポグラフィで気をつけているポイントの紹介、というスタイルでした。

自分自身の専門はオンスクリーンではありますが、文字表現の根本的な考え方は媒体に左右されるものではないので、ぜひこの機会に話を聞いてみたいと思い、参加に至りました。大きく3つほどの学びがあったので、ここでメモしておきたいと思います。

古平正義さんのプロフィール(宣伝会議のサイトより)

FLAME アートディレクター/グラフィックデザイナー。1970年大阪生まれ。アキタ・デザイン・カンを経て、97年よりフリーランス、2001年FLAME設立。主な仕事に、「ラフォーレ原宿」広告・CM、「アートフェア東京」「ローリングストーン日本版」アートディレクション、INORAN・一青窈・GLAY等のCD/DVDジャケット・ミュージックビデオ、BAO BAO ISSEY MIYAKE とのコラボレーションなど。建築のサイン計画や展覧会の会場構成等も手がけている。ONE SHOW 金賞・銀賞、D&AD Yellow Pencil、東京ADC賞など受賞。

1.文字はいじらない

講座中、一貫していたのは「文字の形自体を変えることは好まない」という話でした。その想いの裏側にあるのは、自分が美しいと思えるレベルの文字自体を作るのはとてつもなく難しい、ということへの割り切りと言えます。

文字自体を開発することよりも、既存にある美しい書体の持つ力を利用して求められる課題に対する表現を考えるところに自分の力を注いだ方が結果として効率も良いし、強いデザインになる、ということだと感じました。

文字の形自体をいじって、何かしらの面白い表現、変わった見栄え、デザインされた感を出そう、出してやる!と考えるのはデザイナーのエゴ以外の何物でもなく、本質からズレた話というのは非常に納得できる話です。

反面、自分はわりと「いじられた文字」というものが好きだったりします。それはいじられたことで、既存の書体の形では伝えることができないなにかしらのちょっとした特徴や、いびつさ、個性、といったものがチラリと見えるところに面白みを感じるからです。

確かに古平さんが言われる通り、文字の形自体を「いじる」ことはともすれば自分の知識の無さを露呈してしまいかねない非常に勇気が要る手法とも言えます。

古平さんは文字自体はいじらず、印刷技術をはじめとした+αの要素なりアイデアなりで、表現対象の個性の部分を表現する方であるように思いました。

どちらが正しいという話ではなく、どちらか一方の手法をとり続けなければならない、という話でもありませんが、文字というものはとてつもなく緻密な設計の元に作られている、ということをデザイナーは認識した上で取り扱うべき、と言えます。

2.奇をてらわない

文字組み、レイアウトでも「いじらない」マインドは一貫していると感じました。とにかく、なにかしらデザイナーの「デザインしてやった感」といった部分を出してはならない、本質ではない、という話です。

タイポグラフィ年鑑をパラパラとめくれば、不思議なレイアウトのポスターなりグラフィックなりを見かけることがあります。

おそらくそれらは作者自身のタイポグラフィ哲学を突き詰めた上での到達地点である(であってほしい)と思いますが、そこに憧れてそれっぽい表現を真似るというのは間違っている、という話だと感じました。それはいわゆる、「流行りだから取り入れる」といった考え方と同じものですね。

本質は、伝えたいメッセージをきちんと伝えること。その上で必要となる表現を選ぶこと。

ある程度経験を積んだデザイナーであれば「デザインした感」「デザイナーが作った感」といった表現がわかってきます。しかし本来そこは誰からも求められていないものです。

そこが本質ではないことをどれだけ強く自分の中で持ち続けることができるか、上辺を飾ることで楽して「デザインしました感」を出さないか、という部分にいかにストイックに向き合えるかが重要だと感じました。

3.原稿からがデザインの領域

印刷媒体であれ、オンスクリーンであれ、全てを一人で製作することは少なく、多くの場合は分業されています。しかしながら、分業される中で「自分の製作範囲はここからここまで。それ以外はお金もらってないからやらない。」といった考え方を持ってしまっては、本質に向き合う自分の行動範囲を制限してしまうことになります。

自分の担当する範囲を意識することなく、そもそもの問題は何なのか、それを解決するには何をすべきなのかを、職責や担当範囲に関わらずに考える真摯さが重要である、という話かなと思いながら話を聞いていました。

具体的な話でいうと、原稿の内容のコントロールから印刷までがデザインの領域という話で、Webデザインで言えば、原稿の内容のコントロールからブラウザに表示されるまでがデザインの領域です。

原稿を作る人は必ずしもプロではありません。おおよそがそういった原稿製作を生業としない人が忙しい通常業務の合間を縫って、本業ではない原稿を作成していたりすること多々です。

提供された原稿の裏に隠された、本来表に出さなければならないもの、表に出すことでよりその内容が伝わることは何なのかをデザイナーは注意深く探り、とらえ、表現しなければならないのだと思います。