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UIデザイン提案に不可欠!顧客の納得度を上げるために意識すべき4つの条件(スライド付)

去る6月22日(木)に渋谷で行われた、株式会社アジケ主催のイベント「UX dub〜UX/UIの現場、最前線〜」に登壇させていただきました。今回のエントリーはこのイベントで発表させていただいた内容のフォロー記事になります。

日頃のクライアントへのUIデザインの提案において、なかなか作ったものに対して納得していただけない、スムーズに話が進まない、といった状況は、誰しも経験するものかと思います。しかし近年、私自身の経験を振り返ると、以前に比べてスムーズに提案が進むようになったと感じていました。

そんな時にお誘いいただいた、このイベントの「UX/UIの現場、最前線」というキーワードを聞き、私の所属するベイジではどのようにパートナーをリードしてUIに落とし込んでいるのか?をお話してみようと思いました。

この内容について、我々が作るWebサイト自体のUXやUIを深く追求することももちろん大切なのですが、そこに加えて我々自身がクライアントに最良のCX(カスタマーエクスペリエンス)を与えることも大切だと考えています。そこから、主に以下4つの内容でお話させていただきました。

  • 1)良好な関係性を築きやすい顧客を選んでいるか
  • 2)顧客が安心できる進行を心がけているか
  • 3)論理的なデザイン提案を行っているか
  • 4)専門家としてリーダーシップを発揮しているか

1)良好な関係性を築きやすい顧客を選んでいるか(P15)

企業に所属する個人のデザイナーで関与できる人は限られますが、良好な関係性を築けそうな顧客を選んで仕事をすることは、プロジェクトを円滑に進める上でも非常に重要なポイントです。計画性が低く、制作会社を下に見ているクライアントからプロジェクトを受注すると、スムーズな進行が阻害される危険性があるということです。

ベイジではプロジェクト開始前にここを厳しくジャッジしているため、クライアントから不条理な難題を押し付けられることもなく、建設的にプロジェクトを進めることができています。実はここをしっかり抑えている会社は、デザイナーにとっても非常に仕事がしやすい環境であると言えるのです。

しかし、ジャッジする以前に問い合わせ自体が少なければ、仕事を選り好みすることはできません。そこで必要になるのが、戦略的にクライアントになりうるターゲットに対して、常日頃から自分たち自身の強みを積極的に発信し続ける行動です。オンライン・オフライン問わず様々なチャネルから自分たちの強みを可視化しておくことで、プロジェクトを進める段階で良好な関係性を築きやすくなります。

UIデザインを提案する以前に、そもそものところでこの道筋を作っているかどうか、道筋に沿って強みを理解してくれている顧客を引き寄せているかが大切になるのです。

2)顧客が安心できる進行を心がけているか(P22)

プロジェクトを通して、常にクライアントは不安を感じているものです。提案内容自体のクオリティの高さは当たり前に求められるものとして、その上でクライアントに安心してもらえるような質の高いコミュニケーションを心がけることも、提案内容の納得感に間接的に影響を与えると考えています。

その点、コミュニケーションは非常に属人的になりがちです。上流工程から下流工程に渡って、人が変わっても質の高いコミュニケーションを継続するためには、チーム全体でクライアントにどのように対応すべきか?を共有しておく必要があります。具体的に言えば、以下のようなコミュニケーションルールを整備しておく、ということです。

  • プロジェクト定義書の共有
  • WBSによるスケジューリング
  • メールは誰かが1時間以内に一時返信
  • 打ち合わせ前日までに当日の確認資料とアジェンダを共有
  • 打ち合わせ後は1営業日以内に議事録を共有
  • 必要事項はWBS以外にイシューリストで担当者と機嫌を明確化
  • 行動指針と日報で何のためのルールかを認識

実はここでお伝えしている内容は、ベイジのコーポレートサイトの中でお客様向けに紹介しています。我々自身が約束する行動を、プロジェクトが始まる前段階で見える化しておくことも、一つのコミュニケーション作りと言えます。こちらでさらに詳しくその内容を紹介していますので、ぜひご覧ください。

プロジェクト管理 | 株式会社ベイジ

3)論理的なデザイン提案を行っているか(P29)

ベイジではデザイン提案の際、完成したビジュアルだけを見せるようなことはありません。提案したデザインに対して、なぜこうすべきなのか?を論理的に説明します。プロジェクトやクライアントの特性によって順序や内容は変わりますが、代表的な説明事項として以下の5つをご紹介しました。

デザインの役割定義(P31)

UIデザインはコンテンツ、構造、機能、情緒表現の4つで構成されています。その中でも、提案するビジュアルデザインにおける役割は機能と情緒表現になります。この話を最初にクライアントと共有しておくことで、デザインの見た目の表層的な部分(機能や情緒表現)と内容自体の根本的な部分(コンテンツや構造)の問題は分けて考えましょう、と話ができるようになります。

ターゲットの再確認(P35)

ベイジでは戦略提案の時にターゲットを定義して共有していますが、デザインを提案した際には、個人的な好みの話、抽象的な感性の話、なんとなく好き(嫌い)といった話が出てきがちです。そうした際に事前に定義したターゲットを振り返り、作り手である我々がどう思うかではなく、ターゲットならどう考えるか?という視点に立ち返りましょう、と伝えるようにしています。

ブランドの明確化(P41)

ブランドは基本的に目には見えので、具体的な言葉にして共有しておく必要があります。ベイジではクライアントのブランドを、属性・ファクト(誰も否定できない事実)、機能ベネフィット(機能面での効能や作用や利便性)、情緒ベネフィット(顧客が受ける精神面での便益)、ブランドパーソナリティ(ブランドを擬人化するとどういう人なのか? )、ブランドタグライン(ブランドの約束)で構成されるピラミッドに構造化して共有しています。

トレンドやセオリーの啓蒙(P45)

クライアントによっては最近のWebデザインの特性を知らないこともあります。タッチデバイスの普及によるUIの大きさの変化、マルチデバイス化に伴うデザインのシンプル化をはじめとした、技術革新によるUIデザインのトレンドやセオリーの変化の話です。これらあらかじめ説明しておくことで、提案するデザインに妥当性が生まれ、認識の違いによる無駄な議論を回避することができます。

デザインの提案(P50)

実際のデザイン提案の際に気をつけるポイントは3つあります。1つは提案の幅をもたせること。提案物の数を増やせばいいという話ではなく、クライアントが予想しない部分まで考え抜かれていないとデザインに対する納得感というものは得られにくいものです。そして2つ目は意味をきちんと説明すること、3つ目は対面することです。経緯や意図を、必ず会って説明することが大切です。

4)専門家としてリーダーシップを発揮しているか(P57)

この「専門家としてのリーダーシップ」が特に、クライアントにデザインを納得してもらう上で大切になるポイントです。クライアントは我々に対して専門家としての意見を求めているため「この場合◯◯するのがベストです」「◯◯と考えるべきです」と自信を持って対応できなければなりません。

具体的に言えば、言われたままの要望をそのまま返すような行為、こういう姿勢であればあるほど、提案は後手後手にまわって、クライアントの信頼は獲得できなくなります。また、もしもクライアントの認識が間違っていれば指摘してがあげる態度も必要です。

そして、専門家びいきな説明をしない、という点も重要です。「デザイン的に見るとこれが優れている」とか、「デザイナー的にはこうした方がいい」といった、根拠のない話は回り回って提案物の評価に悪影響を及ぼします。

まとめ

Webサイトを作る作業は、デザインデータやHTMLを作ることだけではなく、クライアントとの関係性や、チームの関係性を作ることも含まれます。単純にブラウザに映し出される絵だけを作るという意識を変え、それらを作るために関わる人々とどのような関係性を築いていくか、という部分まで配慮することで、クライアントからの信頼を得ることができるのではないでしょうか。

UX dub について







※掲載写真はすべてアジケさん撮影

今回はアジケさん初主催のイベントで、告知当初からUX/UIに関心の高い多くの方々から多くの申し込みがあり、結果的に大盛況のイベントとなりました。このイベントの趣旨を、アジケの神田淳生さんから以下のように伺っています。

dubとはレゲエ用語で、曲をリメイクすること。UXの視点を活用してWebサイトやサービスをより成長させることや、クリエイターが集まって一つのサービスを(リ)メイクすることをイメージして付けたタイトル。

アジケさんのオフィスではBGMにdubを流しているというところから、イベントの最中も緩いdubのBGMが流れており、非常にアジケさんらしい、緩やかなムードのイベントでした。今後もこのイベントは継続的に開催されるとのことです。

今回一緒に登壇されたのは、オハコ菊池涼太さん、アルチェコ熊澤宏起さん、スタンダード鈴木健一さん、そしてアジケの梅本周作さんといった面々で、各社の業務を通じたUX/UIに関する、まさに最前線の情報が語られました。私がお話した内容以外の部分は、すでに仕事の早い方々がまとめてくださっていますので、こちらに関連情報として掲載する形とさせていただきます。

今回の登壇の機会を与えていただいたことで、私自身が日々行っているデザインの提案や、デザイン提案にまつわるコミュニケーションがどのようにクライアントとの関係性作りに影響を与えているのかを、改めて見直すことができました。お誘いいただいたアジケの梅本さん、神田さんに深く感謝いたします。

レポート記事

【UX dub Vol.1 イベントレポート】UX/UIデザインの現場、最前線
【イベントレポート】UX dub「UX/UIデザインの現場、最前線」(前編)
【イベントレポート】UX dub「UX/UIデザインの現場、最前線」(後編)
「UX/UIの現場、最前線」イベントレポート

UX dub 座談会

独立部隊、掛け持ちナシ…?クライアントにコミットするUX/UIデザイン4社の仕事術とは
これから進むべき道とは?UX/UIデザイン会社が思い描く未来像
職域を超えろ。ステレオタイプに捉われない、UX/UIデザイナーのあるべき姿とは


デザイン力に伸び悩むあなたが劇的にブレイクスルーするための3つの解決策

デザイナーとして数年間のキャリアを積み上げた方なら、ある程度の実力を身に付けてきたと感じる反面、自分の成長が「停滞している」と感じることはないでしょうか。幾つもの仕事を経験し、デザインの表現や作業スピードには自信が付いた、これまでの経験に沿って仕事をこなすことで大きな失敗にはならないけれど、でもどこか大きく進歩もしない、そんな状況です。

私も20代後半、特にその悩みを感じることがありました。正直なところ、そうした自分の停滞を感じつつも、見て見ぬふりをしているような心境もありました。そこには、会社に所属していてある程度の実力があれば、目の前の仕事は経験則からそこそこの力でこなすことができるし、急に進退を迫られるような切迫した状況には陥らないことなどが影響していたと言えます。停滞に対して「そこまで急いで対処する必要はない」「いつかは変わる」と自分の今の環境を肯定していたのです。

しかしこうした停滞に対する静かな焦燥感は、成長したいと思う気持ちの現れとも言えます。そこを一歩自分から乗り越えることで状況は変化するものです。私の場合、そのきっかけは転職にあり、今所属するWeb制作会社ベイジに入社後は、年を重ねるごとにその停滞から脱出していくことができました。

今回は私の経験を元に、停滞を感じるデザイナーがその状況を打破し、ブレイクスルーするために改めて見直すべきだと考えていることを3つご紹介しようと思います。

  • 1)デザインを基礎から突き詰めて学び直す
  • 2)広義のデザインに触れることができる環境に身を置く
  • 3)練習・勉強することの楽しさを知る

1)デザインの基礎を徹底的に突き詰めて学び直す

30歳の頃、私はすでに3社の制作会社を経験していました。新卒で入社した大阪の小さな広告制作プロダクションでは右も左もわからない状況からスタートしましたが、退職する時にはある程度仕事を任せてもらえるようになり、デザインに対する自信も付いていました。

そこから上京して就職した会社では多くの方から「ちやほや」されました。自分で言うのもなんですが、基本的に前向きな性格であるがゆえに、任せてもらえる仕事には心血を注いでチャレンジし、土日だろうが深夜だろうが、与えられたデザインのクオリティを上げることに集中する日々でした。

そんなところから、荒砂はデザインができる、と声をかけていただける状況になり、大きな挫折も少なく、順調な毎日が続きました。そしてその上り調子の時に会社が傾き、あえなく転職することになりました。

そこからは非常にもどかしく、苦しい期間でした。転職活動を続ける中で、自信を積み上げてきたはずのデザイン力は社外で通用するほどの芯の強さが無いことに気がつきました。一歩会社の外に出てみると、もっとレベルの高い仕事を、圧倒的なスピードでこなしている優秀な方が多く居ました。

正直に言えば、社外の人と積極的にコミュニケーションをとったりすることが無かったこの頃、自分の市場価値がどのレベルのものなのかは見て見ぬふりをしていました。なぜなら、会社の中に居れば優位な立場を追いやられるようなこともなかったからです。

しかし転職する機会に、自分の力がいかに井の中の蛙であったかを思い知りました。そしてそこで改めて思ったことが、もっと骨太で、どこでも誰にでも通用する、市場価値の高いデザイナーになりたい、ということでした。

そんな時、私は今でも第一線で活躍しているクリエイターのブログをよく見ていました。そこで語られるデザインに対する想いや、作られたもののクオリティの高さを横目で見つつ、なんとか自分もこうした人たちと同じ土俵に入れないものか、と考えていました。

そんな時に出会ったのが現在所属するベイジです。もともと代表がブログでデザインやwebビジネスに対する学びを公開していたのを外から眺めていたのがきっかけでした。自分もこうして外に語れるような、強いデザインに対する思考力が欲しいと心底思いました。

そして30歳でベイジに入社するわけですが、正直なところ、1~3年目は特にボロボロでした。それまで積み上げてきた感覚頼りのデザイン力はベイジで求められるデザインクオリティには耐えかねるもので、日々葛藤と焦り、力量不足に悩む日々でした。まさに基礎からの再スタートです。

デザインにおいて、ベイジでは4つの基本原則のおさらいからスタートしました。本を読み、練習し、実践することの繰り返しです。もちろん最初からうまくいくわけではなく、原則に反した判断から何度もやり直す日々が続きました。

思い返しても辛いと感じたシーンは多々ありますが、そんな中でもしぶとく継続できたのは、転職の際に経験した自分のデザイン力の薄っぺらさにほとほと嫌気がさしていて、その時の自分から少しでも脱却したい、という気持ちが常に根底にあったからだと振り返っています。

ベイジのデザインの特長は、デザインの基本原則やビジネスで求められる論理性、デザイナーびいきの視点に囚われないことに徹底的に忠実なところと、時にその原則うんぬんをさて置いて、パッと見で魅力的なのか?グッと人の心を引き込む力が宿っているのか?という、いわば論理性を度外視した感性の部分を、同時にバランス良く追求し続けるところにあります。

写真一つ、書体一つ、色一つ選ぶにしても、なぜその写真、書体、色である必要があるのか?という理由と共に、一目見て人の心ハッとさせるような魅力があるのか?という部分を徹底的に自分自身に問い続け、磨き続けていくような作業です。

実は私のように、感覚値だけである程度のデザインレベルに到達する人は世の中に五万といるのです。しかしその上のレベル、ユーザの心に強く正確に働きかけたり、企業のビジネス上の成果に論理的にひも付けて提案できるようなデザイン力に到達するためには、徹底的に感覚値や自己都合を排除した上で、ネガティブチェックに耐えうる論理的なデザインを導き出す、自分への厳しさが求められます。

私はそもそも感覚値でステップアップしてきただけに、自らそうした思考に至ることはできなかったと振り返っています。しかし、転職を期に基礎から再度積み上げることが求められる環境を選んだことで、そうした自分の特性を抑えた上で、デザインに対する思考を深めることができました。

そうして入社から6年、自分のデザインはお客様のビジネスの中での機能を果たした上で、様々なデザインポータルサイトにも掲載されるようになり、自分のデザインに対する考えをブログで社外に発表して、時には大きなバズを生み出すことも経験しました。30歳を過ぎた頃、自分が欲しいと考えていた「強いデザインに対する思考力」が少しは身につきました。当時の自分が今の自分を見たら、それこそタイトルにあるような「劇的な成長」だと感じるのではないかと思います。

当時の私と同じように、デザインが好きで誰にも負けたくなくて、でも本当に自分の力が外で通用するのかについては実は不安である、実は自分の力が人と比べて薄っぺらいことを知っているけれど、見て見ぬふりをして誤魔化している、今居る環境にとどまっていれば危機的状況に陥ることはないと思うけれど、実際に状況が変わった際のことを想像すると不安で仕方がない、そしていつかは本質的でどこでも通用する、強いデザインに対する力をいつかは身につけたい、と考える人が居たとしたら、もう一度基礎から徹底的に学びなおすことができる環境に身を置くことは、最適な選択肢の一つなのかもしれません。

しかし20代後半のタイミングを逃すと、こうした環境に身を置くことは難しくなります。なぜなら30代を過ぎた人材には基礎の学び直しよりも、チームをリードするような働きが求められるようになるからです。でもこの記事のタイトルにピンと来た方なら、まだ間に合うのではないでしょうか。

2)広義のデザインに触れることができる環境に身を置く

書体、配色、写真を選ぶといったデザインの手法は「狭義のデザイン」と言えます。まさに先に述べたような内容です。その上で、クライアントに対してwebを使ったマーケティング施策の提案や、UXデザインの手法を取り入れたサイト構築を行う上流工程の仕事は「広義のデザイン」の意味合いが強くなります。

例えば我々が制作に携わる企業サイトはテクノロジーの進化と共に、役割が変化しています。上の図を見ていただくと分かるように、1994〜2002年頃は企業の看板的な意味合いや、会社案内としての意味合いが強くありました。存在するだけで価値があった時代と言えます。この頃のWebデザインは見た目の新しさ、表現の面白さといった「狭義のデザイン」であっても十分に効果を発揮しました。

その後、徐々に役割は戦略実現のためのツールとして、またコミュニケーションのプラットフォームとしての役割を強め、リードの獲得、ブランドの形成への働きかけが強く求められるようになりました。そこでは前述したような表現手法にあたる「狭義のデザイン」よりも、人の心をどのように動かすのか?という「広義のデザイン」の力が求められるようになったのです。

ここで最初の話に戻りますが、実は停滞を感じるデザイナーは、ある意味狭義のデザインは一定の水準まで到達した人であると言えます。そしてその後のさらなる成長を望むのであれば、広義のデザインに目を向けなければならない、と私は考えています。

元々Webであれグラフィックであれ、デザインにはこの広義のデザインの考え方が根本にあります。しかし、就職した企業によってはこうした考え方、働き方を求められず、いかに表現のスキルを上げるかだけを課題として掲げられたり、広い意味でのデザインの意味に触れることができない環境も多く存在します。そうした企業の属した場合、デザイナーとしての働き方は時代の流れと逆行する形となって先細りしていきますし、さらなる成長を感じる事も難しいでしょう。

その環境を具体的に言うなら、プロジェクトの背景も満足に伝えられず、ただ決められた企画に沿って絵を作り、そこに自分の考えを反映しようと思っても、上流での決定事項は変えることができず、「なぜこんなもの作らないといけないんだ」という疑問が出やすい職場で働くようなイメージです。

もちろん、狭義のデザインのみに特化して働くキャリアもありますし、その働き方が自分の中でのデザイナー像である、と考える人もいます。しかし昨今のAI技術の進化に伴って、こうした狭義のデザインの部分については自動化が進み、細かなデザイン表現の場が奪われていく時代であることも認識しておくべきでしょう。

そうした中、心のどこかで広義のデザインへの関与を望む気持ちがある場合には、できるだけ早いうちにそうした考え方を重要と考える環境に身を置くことが大切です。ある程度、狭義のデザインである表現手法を追求することも重要ですが、例えば私のように転職などのタイミングで、デザイナーとしての働き方、未来を見据えて自らのデザイナーとしてのポジションを見直すことも大切です。

この点において、私は現在の会社に入社した後、ビジネスの戦略、マーケティング、ブランディング、UXといった広義のデザインを、直クライアントに提案する機会に多く関わることができています。制作会社も色々とありますが、こうしたビジネス戦略に強みを持たない企業に属した場合には、広義のデザインに触れる機会は少なくなります。

デザイナーとしてキャリアを積み上げる上では、最終的に自分はどういったデザインを作り、どういった規模の、どういった人々に影響力を発揮していくのか?を考えるべきです。そして自分の強みを知り、戦略的に進むべき道を検討する必要があります。

3)練習・勉強することの楽しさを知る

この記事を読んでいるあなたは、練習・勉強することは好きですか?学校でいうところの勉強とは、授業を受けてその内容を頭に叩き込み、テストでその回答を自分の頭から引き出す、というものです。本来、人はこうした自己成長に喜びを得られるものですが、なかなかその勉強すること自体の楽しさを知っている人は少ないものです。

先にも書いた通り、私はもともと根っから感覚値で物事を判断して結論を出しやすい性格のため、熱心に厚い本を読んで歴史から基本を学んだり、広い事実からセオリーを導き出したり、といった活動とは、学生の頃から無縁の生活を送っていました。

しかし、好きという気持ちは根底にあるため、意識的に「練習・勉強するぞ」とならずとも、興味の働くままに物を作ってみたり、目の前の課題をクリアするために努力したり、といった行動はその都度とってはいました。ある程度まではこうした行動パターンでも成長することは可能です。

ですが、人にその知識を体系立てて説明できたり、説明を受けた人が同じように再現できるレベルの勉強と、自分だけの感覚値としてプラスになるというレベルの勉強には大きな差があり、歳を重ねるごとに基礎体力の差に開きが生まれてきます。

私のように、場当たり的でミニマムな勉強方法は、目の前の課題をクリアする上では一時的に機能することもありますが、より高いレベルの仕事をクリアする時、不確定要素だらけのビジネス上の課題に対する答えを求められる時、チームや顧客に対する強い影響力が求められる時ほど、通用しなくなります。それはどんな企業、どんな職種を選んだとしても同じです。

私の場合はベイジで活動を続ける中で初めて、練習・勉強することの楽しさを知りました。例えば、先にも挙げたデザインの基本原則の知識を自分なりにまとめて資料を作り、勉強会を開いて人に教えることは、強く自分の知識として定着しました。また、デザインポータルに掲載されているような優秀なデザインの模写を練習として一定期間続けたことで、仕事の中ですぐに活かせる力になりました。

両方に共通するのは、自発的に積み上げた知識を人の目に触れるところにアウトプットしていたことです。こうすることで、知識は完全に自分の引き出しに格納され、いつでも自由に引き出すことができるようになります。これがいわゆる勉強というもの、学びというものであることであることを知りました。

伝えた人から「為になった」とコメントをいただくこと、そして何より、自分がその知識を利用して新たに大きな課題を解決できるようになった時には、場当たり的な勉強では得られなかった、自分の実力となったことへの実感と、喜びを得ることができます。自発的に勉強を重ねれば重ねるほど、自分の確固たる力と喜びを同時に得るサイクルが出来上がるのです。

勉強すること、練習することには苦労が伴います。私はよくこの話の際に、DRAFTの宮田識さんの言葉を思い出します。以下、著書である「DRAFT宮田識 仕事の流儀」からの抜粋です。

毎日の仕事に振り回されていたらダメですね。徹夜続きで何もできないっていうのは最悪。野球でもサッカーでもゴルフでも、スポーツ選手は試合とは別に、ものすごい量の練習をしています。バットが外れて負けた。そうしたら死ぬほどバッティング練習するじゃないですか。PKで負けた。そうしたらぶっ倒れるまでPKの練習をするじゃないですか。それを考えたら、「デザイナーは甘いんじゃないですか?どれだけ練習してますか?」ということですよね。世の中、簡単にうまく行く方法はない。自分が好きで選んだ仕事なら、やってみろと言うしかない。練習するにしても、言われたことをこなすだけじゃダメですよ。自分の意思で動かないと身に付きませんから。自分から求めて初めて分かること、覚えることがあるんですよ。それが長く記憶に残る。自分だけのアイデアソースになっていくんです。

誰もが凡人です。そうした凡人が結果を出すには、努力・練習するしかありません。これを毎日苦しい中でも継続することで、結果的に喜びや楽しみを感じることができるようになるのです。

私はこの「勉強する・練習する」ことを学んだのは、タイミングとして遅すぎたと感じています。世の中の優秀な方は若い頃から、勉強することの喜びと楽しさを知っていて、それを自然と生活の中に取り入れていることから、早くに高いパフォーマンスを発揮できているのです。

しかしそんな私でも30歳から勉強や練習を改めて意識しはじめたことで、人に自らの知識を伝え、自分の力で学んでいく喜びを覚えながら、伸び悩みや停滞感を脱出することができました。コツコツと自分が求められる力に対して前向きな勉強・練習を積み重ねる人であれば、私のように長い時間をかけなくても、短い期間で想像もしていなかった自分のポテンシャルを引き出すことができるはずです。

あとこの話で一つ気をつけておかなければならない話があります。それは自分が今いる環境が、練習や努力が報われる環境であるかどうかを客観的に把握しておくことです。こうした頑張りが報われない環境に居続けるのは、あなたのキャリアにおける大切な時間を無駄にします。そうした時は思い切って環境を変える必要があると、私は考えています。

まとめ

以上が、デザイナーの成長における停滞をブレイクスルーするために、私が改めて見直すべきだと考えている3点です。総じて言えば、まず基礎となる土台を積み上げることができる環境を選ぶこと、そしてそこで感覚的な判断基準を排除した論理的な考え方を身に付けるための活動を積み重ねること、が重要です。停滞期は辛いものですが、考え方一つ、行動一つでそれまでの停滞が嘘のように、ガラッと視界が開ける可能性は十分にあると考えています。

お知らせ

そして、もしもここでお話した内容に少しでも共感した、興味が湧いたという方がいらっしゃれば、ぜひ私の所属するベイジという会社もブレイクスルーのための環境として、選択肢に入れるのも良いと思います。採用サイトからご応募いただいて、お話を聞かせてください。もしくはFacebookTwitter経由で話しかけていただいても構いません。もちろん現状のスキルはある程度考慮されますが、それよりもここでお話した私の経験や考えに共感いただける方であれば、ぜひ積極的に応援していきたいと考えています。

興味を持っていただけた方はこちらから株式会社ベイジの採用情報をご覧ください